そこが知りたい 2012(平成24)年4月号

腰部脊柱管狭窄症について

  2011年11月に日本整形外科学会及び日本脊椎脊髄病学会監修のもと,『 腰部脊柱管狭窄症 診療ガイドライン2011 』(以下ガイドラインと略称)が作成された。
 わが国では超高齢化社会を迎え,65歳以上の高齢者が男女ともに平均寿命が延び,2010年9月時点で2944万人に達している。このため疾病構造も様代わりをし,骨粗しょう症や変形性関節症,腰部脊柱管狭窄症などが,整形外科領域の主要疾患に加わってきた。つまり,病院にて勤務している薬剤師としても,腰部脊柱管狭窄症を患った患者さんに接し,服薬指導を行う機会が今後増加していくことが予想される。こうした事を踏まえ,ガイドラインの中から疾患・診断・治療等について抜粋・紹介をしていきたいと思う。
 まず腰部脊柱管狭窄症は,腰椎の椎間板椎間関節の変性を基盤として神経の通路である脊柱管や椎間孔が狭小化することで,神経組織あるいは血流の障害が生じ,特有の症状を呈すると考えられている。しかしながら,現在のところその成因や病理学的な変化が完全には解明されておらず,定義についても様々な意見があるため,今回のガイドラインにおいて,定義は制定されなかった。つまり腰部脊柱管狭窄症は,複数の症候の組み合わせにより診断される症候群とするのが妥当であるというのが,ガイドラインでの見解である。
 次に診断基準であるが,本来であれば科学的エビデンスに基づき制定されるべきであるが,こちらも統一した見解は得られてない。しかし日常の診断において,ある程度の共通した基準が必要であるため,ガイドラインにおいては下記に示す診断基準を一時的なものとして定めている。今後,定義も含め診断基準の信頼性・妥当性について検証していく必要があると考える。
 
腰部脊柱管狭窄症の診断基準(案)
                                                                                       以下の4項目をすべて満たすこと
殿部から下肢の疼痛やしびれを有する
殿部から下肢の疼痛やしびれは立位や歩行の持続によって出現あるいは増悪し,前屈や座位保持で軽快する
歩行で増悪する腰痛は単独であれば除外する
MRI などの画像で脊柱管や椎間孔の変性狭窄状態が確認され,臨床所見を説明できる
                                                                腰部脊柱管狭窄症 診療ガイドライン2011より抜粋
 
 腰部脊柱管狭窄症に対する治療としては手術療法と保存療法がある。ガイドラインでは,各重症度(下肢痛の強さに基づいた重症度と定義しているが厳密な区分ではない)に対する保存療法と手術療法を比較した結果が記載されている。まず,初期治療は保存療法が原則であるが,保存療法が無効である場合には手術療法を推奨している(Grade A)。保存療法の一つとして薬物治療が挙げられるが,よく使用される非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs),筋弛緩薬,メチルコバラミンなどの薬物による治療が有効であるという高いエビデンスは得られていない。
 しかし一方で,腰部脊柱管狭窄症患者に対するリマプロスト(PGE1)15mg /日の有用性をエトドラク(NSAIDs) 400mg/日と比較し検討を行ったエビデンスがある。両薬剤の8週間連続投与が行われ,その後治療効果判定がなされている。評価項目には健康関連QOL ならびに下肢のしびれ,歩行距離,主訴の改善,満足度が用いられており,結果,QOL ならびに下肢のしびれ,間欠跛行距離に有意な改善がリマプロスト投与群に認められていた。ガイドラインでは,PGE1は両下肢のしびれならびに神経性跛行を伴う馬尾症状を有する腰部脊柱管狭窄症の治療に短期間は有効であると推奨している(Grade B)。
 また,手術療法の術後QOL 評価は,人工膝関節・人工股関節置換術の成績に比較して遜色がなく(Grade B),手術治療(除圧術)の2年成績は保存療法よりも優れていると推奨している(Grade C)。
 今回のガイドライン制定にあたり,医療従事者が共通の認識を持つことが可能となった。しかし,今まで示してきたように腰部脊柱管狭窄症に対しては,未知なる部分が多く,手探りの治療が継続しているのが現状であるといえる。今後さらなる臨床試験が行われ,より良い治療を行えるようになることを期待する。
Grade A:行うことを強く推奨する。強い根拠に基づいている。
Grade B:行うよう推奨する。中程度の根拠に基づいている。
Grade C:行うことを考慮してもよい。弱い根拠に基づいている。
 
参考文献
・腰部脊柱管狭窄症 診療ガイドライン 2011
(日本大学医学部附属板橋病院薬剤部
 菅原 耶絵子,木村 高久)