そこが知りたい 2012(平成24)年6月号

抗うつ薬投与時の自殺予防について

 現在,本邦で市販されている抗うつ薬の全ての添付文書において,効能又は効果に関連する使用上の注意事項には,『24歳以下の患者で,自殺念慮,自殺企図のリスクが増加するとの報告があるため,投与にあたっては,リスクとベネフィットを考慮する』と記載されている。さらに,重要な基本的注意事項には,『うつ症状を呈する患者は希死念慮があり,自殺企図のおそれがあるので,このような患者は投与開始早期ならびに投与量を変更する際には患者の状態及び病態の変化を注意深く観察する』と記載されている。
 こうした背景をもとに,日本うつ病学会は治療手段である薬物の選択や用量が不適切であるために十分な改善に至らない患者が少なくないと考え,自殺対策として発表した『SSRI,SNRI を中心とした抗うつ薬適正使用に関する提言』では,次の4つの注意点を述べている。
⑴用量:一般的な注意点として大量投与は避ける
⑵用法:原則通り,漸増法,漸減法で行うこと
⑶投与期間(1~2週間)および増量あるいは変更時には,よりきめ細かな観察(通院間隔を短くするなど)を行うことは当然であるが,この時期に限らず,投与前に比べて,焦燥感,激越,イライラ感,攻撃的態度等が見られる場合には,投与の継続の可否や鎮静作用のある薬剤の併用などを含め再検討する
⑷双極性障害の診断が明確になった場合には,原則として,気分安定薬を主剤とし,抗うつ薬を単独で投与しない
 
 薬剤の選択に関してメタアナリシスの結果,現在ではSSRI のうちエスシタロプラム,フルオキセチン,フルボキサミン,パロキセチン,セルトラリンの,各薬剤間には,自殺完遂,非致死的自傷行為および自殺念慮に関して有意差はないと報告されている。
 次に,自殺予防にあたりどのような背景をもった患者の,どのような症状に対してより注意を払わなければならないのか,と云う問題がある。大うつ病性障害の患者を対象とした調査から自殺関連事象の予測因子が報告されており,大うつ病エピソードや部分寛解の期間の長さ,自殺企図歴,年齢,パートナーの不在および社会的サポートの認知の低さが挙げられている。また,他の研究では,家族問題,薬物やアルコールの使用,社会不安障害,心的外傷後ストレス障害,全般性不安障害,パニック障害,幼少時の虐待,双極性障害の若年発症,第一親等の自殺行動,うつの重症度,身体的苦痛が挙げられている。
 FDA が挙げた抗うつ薬服用後にうつの悪化や自殺関連事象のリスクが高まる可能性のある注意すべき症状を表に示す。
 
表.FDA が挙げた抗うつ薬の服用後にうつの悪化や自殺関連事象のリスクが高まる可能性があるために注意すべき症状

・不安                      ・敵意
・焦燥                      ・衝動性
・パニック発作          ・アカシジア
・不眠                      ・軽躁
・イライラ感             ・躁

 
 このような患者個々の自殺関連事象となるパーソナリティーや抗うつ薬服薬後の精神症状の変化となる徴候を捉えるには,患者や家族とのコミュニケーション・スキルが大切であることは言うまでもない。抗うつ薬の適正使用,服薬指導には,社会問題となっている自殺対策としての対応が求められている。
 
参考資料
・臨床精神薬理:vol.14, 12(2011)
(順天堂東京江東高齢者医療センター薬剤科 高野 賢児)