そこが知りたい 2012(平成24)年8月号

ERCP 後膵炎の予防
 
 内視鏡的逆行性胆管膵管造影(endoscopic retrograde cholangiopancreatography; ERCP)は膵胆道系疾患の精査には欠かせない検査であるとともに,胆管結石・膵胆道悪性腫瘍による閉鎖性黄疸や,膵石に伴う膵炎に対する内視鏡的処置にも応用できる有用な検査法である。
 しかし,ERCP による合併症には重篤なものが多く重症急性膵炎により死亡例もあることから,患者にとって決して楽な検査ではない。ERCP の合併症としては急性膵炎,胆管炎,穿孔,出血などがあるが,急性膵炎が最も高頻度にみられる合併症である。診断的ERCP による合併症の発生頻度は0.4~1.5%とされている。治療的ERCP となると発生頻度はさらに高くなる。ERCP 後膵炎の危険因子としてOddi 括約筋機能不全,女性,膵炎の既往などが挙げられる。原因としては十二指腸乳頭部への機械的刺激による腫脹や,造影剤による膵臓への直接作用などが挙げられるが,発症の機序は不明な点が多いのが現状である。
 急性膵炎診療ガイドラインでは,ERCP 施行後に発症した急性膵炎と定義しているが,膵酵素上昇の時期や程度の基準はない。重症化を防ぐためにもERCP 後膵炎の予防について検討がなされてきた。膵管ステント留置は膵炎予防に有用であることが示唆されている。しかし,コストやリスク面について言及されており,臨床上の利益を考慮する必要があるとしている。
 薬剤による予防効果についても数多く研究がなされていて,ERCP 施行後からガベキサートメシル酸塩またはウリナスタチンの投与が行われている例がある。ガイドラインでは有用性についてガベキサートは有用とする報告もあり,高危険群に対しての投与は勧められているが,予防効果は否定的な意見が多い。またウリナスタチンに対しても否定的な見解が多く,コストや患者負担を考えるとこれらの投与に対しては疑問視されている。
 一方で有用性が期待されている薬剤としてNSAIDs がある。NSAIDs 直腸内投与がERCP
後膵炎の罹患率を低下させる可能性が示唆されていた。これまで,NSAIDs 坐薬投与についてのメタ解析が行われており,膵炎発症率はNSAIDs投与群(ジクロフェナク,インドメタシン)では8.9%,プラセボ群では16.8%であり,NSAIDs 投与群で有意にERCP 後膵炎を抑制したと報告されている。
 しかし,これらは予備的な研究の報告であったため,質の高い臨床試験が求められていた。今回,ERCP 後のインドメタシン直腸内投与が急性膵炎の罹患率を低下させ,さらに重症化を防げることが報告され,初めてERCP 後膵炎予防に有効である薬剤が証明された。
 この報告によるとERCP 後膵炎の発症はインドメタシン群とプラセボ群でそれぞれ27/295(9.2%),52/307(16.9%)であった。このうち中等度~重症膵炎の発症はインドメタシン群で13人(4.4%),プラセボ群で27人(8.8%)であり,重症化も含め膵炎発症リスクをほぼ半減することが示された。
 この試験ではインドメタシン坐薬50mg 2個をERCP 施行直後に投与している。本邦では通常1回量25~50mg であり,50mg 投与でのERCP 後膵炎の予防効果については不明のままである。今後,投与量の検討が必要ではあるが,患者の負担やコスト面から考慮してもNSAIDs 直腸内投与は有用であると考えられるため,NSAIDs の用法用量の見直しがされることを期待したい。
 
参考文献
1) 急性膵炎診療ガイドライン2010年版
2)B.joseph Elmunzer,et al. A Randomized Trial of Rectal Indomethacin to Prevent Post-ERCP Pancreatitis. N Engl J Med 2012;366;1414-22
(日本大学医学部附属板橋病院薬剤部  榎本麻衣子,木村 高久)