そこが知りたい 2012(平成24)年10月号

ミルクアレルギー児とビオチン欠乏
 
 ビオチンはカルボキシラーゼの補酵素として糖新生,分岐鎖アミノ酸,脂肪酸合成,エネルギー代謝などに関連している水溶性ビタミンの一種である。ヒトでは生合成できない必須ビタミンであるが,食品から摂取できる以外に腸内細菌によっても合成されるため,通常の食生活では欠乏症にならないとされる。
 ところで国内の調製粉乳には,健常児が母乳の代わりに飲用する一般的な乳児用調製粉乳と病児に対する特殊な治療用調製粉乳がある。これらに含まれる原料由来のビオチン量は少なく,またビオチンは添加物としての指定は受けているものの保健機能食品以外には使用不可となっており,乳児用調製粉乳への添加は認められていない。乳児期のミルクアレルギー児では加水分解乳(ニューMA-1,ペプディエットなど)やアミノ酸乳(エレメンタルフォーミュラなど)が栄養の中心となる。しかしエレメンタルフォーミュラではタンパク質に由来しない結晶アミノ酸を唯一の窒素源としており,他の原材料も精製度の高いものが使用されているため外からビオチンを添加しない限りその含有量はゼロに近い(表)。従って栄養を調製粉乳に依存する乳児期のミルクアレルギー児では容易にビオチン欠乏症に陥る可能性がある。実際,ミルクアレルギーの乳児を中心にビオチン欠乏症が報告されており,日本小児アレルギー学会ではミルクアレルギー児におけるビオチン欠乏症に関して注意喚起を行っている(平成24年2月)。
 ビオチン欠乏症の症状は,顔面(特に眼瞼および口唇周囲)および外陰部の皮疹(境界明瞭な落屑を伴う紅斑)と脱毛であり,アトピー性皮膚炎との鑑別が大切である。治療は経験的にビオチン1mg/ 日が推奨され,ビオチン投与により皮疹は速やかに改善する。
 ミルクアレルギー児でのビオチン欠乏症報告は日本のみであり,これは調製粉乳へのビオチン添加が認められていないが,諸外国では既に添加されていることによる。ミルクアレルギー児におけるビオチン欠乏を見逃さず,適切にビオチンを投与することは重要であるが,食品添加物として認可されている成分を医薬品として投与せざるを得ない状況は医療費の面からも好ましくなく,またビオチン欠乏による皮膚症状とアトピー性皮膚炎の誤認の問題もある。根本的な解決は調製粉乳へのビオチン添加であり,保健機能食品以外への適用拡大が望まれる。
 
 
表 調製粉乳中のビオチン含量
アミノ酸乳(エレメンタルフォーミュラ) <0.1μg/100kcal
治療用特殊調製粉乳 0.4μg/100kcal
一般調製粉乳 1.0μg/100kcal
FAO/WHO 基準 1.5μg/100kcal
(※ FAO:国連食糧農業機関)
 
参考資料
・日本小児アレルギー学会ホームページ
「ミルクアレルギー児におけるビオチン欠乏症に関する注意喚起」http://www.jspaci.jp/modules/important/index.php?page= article&storyid=7
・日本小児科学会ホームページ 栄養委員会報告 「乳児用特殊ミルク等の栄養素含有適正化に関するワークショップ(2011.6.18)」http://www.jpeds.or.jp/saisin/saisin_120509.pdf
・国立健康・栄養研究所ホームページ「健康食品」の安全性・有効性情報https://hfnet.nih.go.jp/contents/index32.html
 
(都立小児総合医療センター薬剤科 大村由紀子)