そこが知りたい 2016(平成28)年2月号

ヘリコバクター・ハイルマニ感染症とその除菌方法

 1973年にストリックランドは自己免疫性の慢性胃炎を A型胃炎,Helicobacter pylori (H.pylori) などで起こるその他の慢性胃炎を B 型胃炎と命名している。

 B 型胃炎は日本人に多く,H.pyloriが原因菌として1982年に同定され,遺伝子ゲノムの全塩基配列が決定されたのは18年前の1997年のことである。胃の炎症は長く続くと,正常の胃組織が腸の組織に似た形に変化し,その結果,胃の粘膜層が薄くなり,萎縮性胃炎または化生性胃炎といわれる過形成性となる。この状態が進行すると,大腸様の組織へ変化して癌化のリスクが高いとされる。国内では2000年にH.pylori除菌治療が保険適用となり,消化性潰瘍再発抑制など,その効果は上部消化管疾患の治療を一変させた。近年ではH.pylori感染率は低下してきている。

 このB型胃炎を主要な原因とする疾患,すなわちH.pylori陽性者では陰性者に比して多く見られるものは,胃癌,消化性潰瘍,胃腺腫,胃MALTリンパ腫,過形成性ポリープが挙げられる。これらの疾患は,いずれもH.pylori感染者全てに発生するのではなく,他の原因が加わり一部の感染者に発生する。

 ところで,このHelicobacter属はH.pyloriだけではなく,類似細菌としてHelicobacter heilmannii (H.heilmannii) が存在していることがわかっている。胃MALTリンパ腫患者からH.heilmanniiが検出された報告や,ヒト慢性胃炎患者の0.2~0.4% から検出され,日本人における罹患率は0.1%であることが報告されている。この2つの異なるHelicobacter属は人畜共通感染症として認められ,胃粘膜内に異なる疾患を惹起する。スナネズミを用いたH.heilmannii感染胃粘膜の長期観察により,潰瘍の発生はみられないものの慢性胃炎が惹起される。H.pylori感染と比べ,胃粘膜には高度の慢性炎症性細胞浸潤が長期に持続して,まれに胃 MALTリンパ腫様病変が発生することが確認されている。これらの結果は,ヒト胃生検組織による検討に一致 するものであったと,東らは報告している。

 H.heilmanniiの除菌はH.pylori除菌療法と同じ治療方法で効果が認められている。しかし現在のアモキシシリン・クラリスロマイシン・プロトンポンプインヒビター(PPI)などの3剤療法による除菌療法の結果であり,カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-cab)を使用した除菌療法での報告はいまだにない。その要因として,もともとH.heilmanniiはイヌ,ネコ,ブタおよびヒト以外には一般的に存在する菌で,マウス胃底腺に多数定着しているが,培養が困難なため培養方法が確立していないことにもよる。今後さらにH.heilmannii除菌療法の研究調査が進み,胃炎の治療方法が確立されることが期待される。

参考資料

1) ヘリコバクター・ハイルマニ感染症の病理および病態の解明と診断法の開発PATHOLOGY, PATHOPHYSIOLOGY, AND DIAGNOSIS OF HELICOBACTER HEILMANNII INFEDTION,科学研究費助成事業 2003年度~2004年度 太田 浩良

2) ヒト胃内感染ヘリコバクター属,ピロリとハイルマニのゲノム解析と病原性遺伝子の解明,公募研究2005~2009年度 神戸大学大学院研究科内科学講座消化器内科科学分野 東 健,

3) 消化器疾患の病態生理 Helicobacter heilmannii 感染MALT リンパ腫における幹細胞と微小循環系:除菌の効果,馬庭優子他

(東京都立墨東病院薬剤科 廣井 順子)