そこが知りたい 2016(平成28)年3月号

「チクッ」からの解放~針穿刺時における小児期からの疼痛緩和~

 様々な検査や処置が行われる中で,採血などの静脈穿刺をはじめとする針穿刺の処置は痛みを伴い,苦痛やストレスを感じることがある。処置の目的や必要性の理解度は人によって様々であり,特に小児では不安や恐怖感を強く感じ,穿刺時に泣く,動くことは少なくなく,安全に行うために抑制等が必要となることもある。

 これまで静脈留置針穿刺時の疼痛緩和に対しては,外用局所麻酔薬としてリドカインテープが用いられてきたが,採血時等の注射針穿刺時での適応は有しておらず,新生児などに対する安全性も確立されていない。こうした中,皮膚レーザー照射療法時の疼痛緩和に適応を有していた「リドカイン・プロピトカイン配合クリーム(製品名:エムラクリーム)」において,2015年6月に「注射針・静脈留置針穿刺時の疼痛緩和」の効能・効果が加わり,更に新生児を含めた小児に対する用法・用量も追加となった(表1)。

 リドカイン・プロピトカイン配合クリームはリドカインとプロピトカインを等モルで混合した共有混合物を配合した水中油滴型(O/W 型)のクリーム剤である。皮膚の麻酔には,表皮内の角質層を通過し,真皮に多く存在する神経終末に対して作用を示す必要がある。表皮内は水分を多く含んでおり,その中にも水溶性物質のバリア機構となる細胞間脂質を有するため,局所麻酔薬としては疎水性成分が多く含まれる O/W 型のクリーム剤が有用である。しかしリドカインの融点は68℃,プロピトカインは38℃であり,それぞれ室温では固体であるため,各成分単剤でのクリーム剤を調製するには,可溶化剤を用いて溶解し,液状化,乳化させる必要があるが,この場合,液体となる油滴の中では希釈され成分濃度は低くなってしまう。

 一方で,リドカインとプロピトカインの共有混合物では融点が下がり,等モルで混合した時には約18℃となり室温で液体として存在する。そのため,単剤の時のように可溶化剤を用いることなくクリーム剤の調製が可能になり,かつ油滴中の成分濃度が高い状態となっている。クリーム剤は油滴中の薬剤濃度の濃度勾配により薬剤が移行するため,単成分のクリームに比べ,より皮膚への透過性が大きくなっており,それに伴ってより強い局所麻酔効果が得られると考えられている(図1)。

 リドカイン・プロピトカイン配合クリームは穿刺予定部位に10㎠あたり1g を密封法(ODT)により60分塗布して用い,局所麻酔効果持続は薬物除去後1時間程度とされている。最大塗布量,塗布時間は年齢や体重によって定められているが,リドカイン,プロピトカインともに副作用発現が想定される血中濃度に比べ低く推移するため,適正に使用することで安全性も確認されている。

 注射針穿刺の場面や部位は処置の中でも様々であり,患者だけでなく健康人でも行われ,血液検査のための採血など薬剤投与以外の穿刺も多い。特に小児では穿刺前から泣き叫ぶなかでの処置となることが多く,保護者や医療スタッフが抑制した状態となることも少なくない。そのため,針穿刺時の痛みが緩和されることを経験することで,処置に対する不安感や嫌悪感を軽減することができることは非常に有意義であり,医療スタッフにとっても,非薬理的な疼痛緩和の方法に加え,より安全かつ円滑な処置の施行に寄与するものになると考えられる。

参考資料

・佐藤製薬株式会社ホームページ(http://www.sato-seiyaku.co.jp/)

・花岡 一雄, 経皮吸収型製剤:局所麻酔薬. 麻酔 2015;64:1151-1159

(日本大学医学部附属板橋病院 堤 大輔・木村 高久)

表1 新生児を含めた小児に対する用法・用量 年齢(月齢)体重最大塗布量最大塗布時間 0~2ヶ月 1g60分 3~11ヶ月 5kg 以下1g60分 5kg 超2g60分 1~14歳 5kg 以下1g60分 5kg 超10kg 以下2g120分 10kg 超10g120分                             

(エムラクリーム添付文書より引用)

図1 (佐藤製薬株式会社ホームページより引用)