そこが知りたい 2018(平成30)年3月号

周産期におけるメンタルヘルスケアの 重要性と薬物療法への心構えとは

 妊産婦(妊娠中および産後1年を経過していない女性)の直接的な死亡要因は出血,肺塞栓,妊娠高血圧症候群が主たるケースであるが,その一方で自殺による要因が現在問題視されている。

 この背景には東京都監察医務院の中間報告2016年に挙げられた東京都23区の妊産婦における異常死実 態調査があり,その内容は過去10年間(2005~2014 年),妊産婦の異常死89例のうち,63名が自殺によるものであった。自殺の既遂時期は産後が高く,妊娠期が23例(36.5%),産後が40例(63.5%)であった。その手段として縊死や飛降りなどの暴力的手段が妊娠期や産後を通して行われていた。精神疾患既往歴のある妊産婦は38名(60.3%)と高い値を占めており,その時期については妊娠期14名(22.2%),産後24名(38.1%)であった。また産褥期に精神疾 患既往のある女性24名のなかで,13名(54.2%)は 産後うつ病であった。この結果を受けて,政府統計による東京都23区の出生10万人あたりの周産期自殺率を,英国やスウェーデンの報告と比較したデータが出された(表1)。それによると,妊産婦死亡率に大きな差は見受けられないものの,自殺率に関しては英国2.3人,スウェーデン3.7人であるのに対して東京23区は8.7人と高い値を示した。WHOが2015年に示した日本女性の年齢調整自殺率が人口10万人あたり10.1人であることから,日本女性全体の自殺率を妊産婦の自殺率が押し上げている可能性がある。精神疾患既往歴のある妊産婦の自殺は医療体制等の強化で防ぐことのできた死である可能性があり,また精神疾患のない妊産婦でも育児に悩む一方で,精神科受診を拒絶している例もあることから,うつ病などと診断されていない妊産婦の自殺も同様に防ぐことができたかもしれない。そこが昨今の課題とされている周産期メンタルヘルスの問題の一つとなっている。その他の問題としては子供に与える影響が 挙げられる。無治療による周産期のうつ病や不安, 強迫症などの精神疾患は,母親の養育能力の低下による子供の発育障害,精神発達障害,児童虐待などにつながることが報告されている。

 妊産婦の自殺を減らす為に,妊産婦検診システム構築による社会的基盤のサポートの充実が必要とされるとともに,その関連職種向けに臨床疑問への対応能力を身に着けるために有用なガイドラインが日本周産期メンタルヘス学会のHP(URL:http:// pmhguideline.com/)に掲載されており,薬剤師として関わりのある薬物治療についての対応も示されているので是非,ご参照願いたい。

 また周産期のメンタルヘルスケアを実践し,活動している同学会の精神科医から,向精神薬による薬物療法の説明にあたり,産科医・精神科医が留意すべき事項として上記の10ヵ条が提言されている(表 2)。関係する薬剤師としても個々の薬物のリスク情報を得る以前に心得ておくことが必要であろう。

 

参考資料

・鈴木利人:周産期メンタルヘルスの薬物療法:10の原則. 臨床婦人科産科:vol71,No.6,825-829(2017)

・竹田省,引地和歌子,福永龍繁:東京都23区の妊産婦 の異常死の実態調査.第68回日本産婦人科学会学術講演. 東京,2016年4月  

(順天堂東京江東高齢者医療センター薬剤科 高野 賢児)