そこが知りたい 2018(平成30)年5月号

肺動脈性肺高血圧症の薬物療法について

 肺動脈性肺高血圧症(Pulmonary arterial hypertension:PAH)は肺高血圧症の臨床分類(ニース分類)の第1群に分類される疾患で,未治療時の発症後平均生存期間は,成人は2.8年,小児 は10ヵ月と自然歴は極めて不良である。しかし近年多くの肺動脈拡張薬が登場,使用できるようになり,PAHの治療は著しい進歩を遂げたと同時に予後は大きく改善した。現在PAHで使用される肺動脈拡張薬は大きく3つの系統(プロスタサイクリン(PGI2),ホスホジエステラーゼ5阻害薬(PDE-5阻害薬),エンドセリン受容体拮抗薬(ERA))に分けられる(表1)。

 PAHのガイドラインには日本の肺高血圧症治療ガイドライン(2012)やESC / ERSガイドライン(2015)があるが,PAHの薬物療法はWHO機能分類(WHO-FC;表2)で使用する薬剤が異なっている。ESC / ERSガイドラインには近年上市された肺動脈拡張薬が網羅的にまとめられており,単剤療法,併用療法,逐次療法にそれぞれ分けて推奨度とエビデンスレベルを分かりやすく提示している(表 3)。

 単剤療法の場合,WHO-FCⅡ度〜Ⅲ度ではERA,PDE-5阻害薬,sGC刺激薬,そしてIP受容体作動薬による治療がクラスⅠの推奨となっている。WHO-FCⅣ度になるとクラスⅠの推奨はエポプロステノールのみとなる。エポプロステノールは現在でも単独で死亡率・生命予後を改善できる唯一の薬剤である。

 併用療法において,唯一アンブリセンタン+タダラフィルの併用がWHO-FCⅡ度〜Ⅲ度でクラスⅠの推奨となっているが,これは両薬剤の併用が各々単剤の治療よりも優れていることが示されたAMBITION試験の結果を反映したものである。同試験において一次エンドポイントである初発の臨床的不成功(死亡,PAH悪化による入院,疾患進行,長期臨床的奏効不十分の複合エンドポイント)は併用群の方が単剤群に比べ有意に低かった(ハザード比0.50 ; 95%信頼区間0.35〜0.72, p<0.001)。

 逐次療法は,ERA,PDE-5阻害薬にセレキシパグを追加したGRIPHON試験をはじめ,種々の臨床試験結果が加味されている。一方でPDE-5阻害薬 にリオシグアトを追加することはクラスⅢで推奨されない。これはシルデナフィルにリオシグアトまたはプラセボを追加した試験で,一次エンドポイントである投与4時間後の収縮期血圧はプラセボ群とリ オシグアト追加群で差はなく,かつ長期継続治療期(平均投与期間は約10ヵ月)において低血圧による中止率が高く,死亡例が報告されたためであり,両薬剤の併用は禁忌となっている。

 またこれまでのPAHの薬物療法は,まず単剤を投与し効果不十分な場合に次の薬剤を追加する逐次療法が中心であったが,最近では早期から作用の異なる薬剤を併用し,速やかな目標到達を目指す早期多剤併用療法が主流となりつつある。

 新しい肺動脈拡張薬の登場により,治療の選択肢が大幅に増え,個々の患者に最適な薬剤を選択できるようになった。PAHの薬物療法における組み合 わせや順番,そして長期予後の改善について,さらなるエビデンスの蓄積が待たれる。

 

参考資料

・日本循環器学会編, 肺高血圧症治療ガイドライン(2012 年改訂版)(2012)

・和田浩他: 肺高血圧の治療, 日本臨牀, 75, 795-799(2017)

・Nazzareno G, et al: 2015 ESC/ERS Guidelines for the diagnosis and treatment of pulmonary hypertension, Eur. Heart J., 37, 67-119(2016)

(東京大学保健・健康推進本部 本郷地区 梅澤 俊介)