そこが知りたい 2018(平成30)年7月号

より安全な抗凝固療法を行うために~抗凝固作用に対する拮抗薬について~

 50年以上唯一の経口抗凝固薬として用いられてき たワルファリンに加え,2011年以降,トロンビン阻害薬のダビガトラン,Xa阻害薬のリバーロキサバン,アピキサバン,エドキサバンといった直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulants:DOAC)が臨床使用可能となり,主に非弁膜症性心房細動における抗凝固療法の導入患者は増加した1)。しかし,抗凝固療法施行中には重篤な出血(頭蓋内出血や消化管 出血など)の発生時や緊急を要する手術を行う際に, 出血傾向を早急に抑えることが必要となる。近年,ワルファリンおよびダビガトランの抗凝固作用に対し拮抗作用を有する薬剤(表)が本邦においても 臨床使用可能となったため,それぞれの薬剤につい て作用機序を中心に紹介する。

 まず,クマリン系抗凝固薬であるワルファリンは, ビタミンKを拮抗阻害することにより,肝臓における4つのビタミンK依存性血液凝固因子(第Ⅱ,第Ⅶ,第Ⅸおよび第Ⅹ因子)の生合成を阻害し,血栓の形成を抑制するとともに,ビタミンK依存性凝固阻止因子であるプロテインC,プロテインSの産生を抑えて生理的凝固阻止機能を低下させる。従 来,ワルファリン服用中の出血性合併症の対応としては,ワルファリンの休薬やビタミンKの投与が行われてきたが,即効性に乏しく,血液の凝固能が正常化するまでに半日以上を要するという問題点が あった。また,早急にワルファリンの効果を是正する必要がある場合は,新鮮凍結血漿(FFP)または 乾燥ヒト血液凝固第Ⅸ因子複合体製剤の投与が行われてきたが,FFPの投与は効果が限定的であるため新鮮凍結血漿(FFP)の使用ガイドライン上では推奨されておらず,また,第Ⅸ因子複合体製剤は保険適応外であった。

 このような課題をクリアし,2017年9月に上市された4因子含有プロトロンビン複合体(4-Factor PCC)である「ケイセントラ静注用」は,高濃度の血液凝固因子およびプロテインCとプロテインS を含有する製剤であり,不足している凝固因子を直接補充することで迅速に抗凝固状態を是正し,同時にプロテインCを介した生理的凝固阻止機能を回復させることが可能である。海外第Ⅲ相臨床試験(3002試験)において,ビタミンK拮抗薬投与中の患者における速やかなPT-INRの是正(投与終了後30分時点でPT-INR≦1.3)効果は,ケイセントラ群(N=98)で62.2%であり,対照である血漿群(N=104)の9.6%よりも有意に高かった2)

 次に,DOACの1つであるダビガトランは,血液凝固カスケードの重要な酵素であるトロンビンの活性部位に競合的かつ可逆的に結合し,フィブリノゲンからフィブリンに変換するトロンビンの触媒反応を阻害することで抗凝固作用を発揮する。従来,ダビガトラン服用中の出血性合併症の対応としては,ダビガトランを休薬する以外の方法は無かったが,2016年11月にダビガトランの特異的中和剤であるイダルシズマブ製剤「プリズバインド静注液」が上市され,臨床応用されている。イダルシズマブは血漿中のダビガトランおよびそのグルクロン酸抱合代謝物と高い親和性で特異的に結合するヒト化モノクローナル抗体フラグメント(Fab)であり,投与直後に抗凝固作用を中和することができる。国際共同第Ⅲ相症例集積試験(RE-VERSE AD試験)において,希釈トロンビン時間またはエカリン凝固時間に基づいて評価されたイダルシズマブ投与終了後4時間以内に達成されたダビガトランの抗凝固作用に対する最大の中和効果の中央値は100%であり,ほぼ全例で投与直後に中和効果が得られた3)

 このように,抗凝固能作用を速やかに是正することが可能な製剤が上市されたことで,より安全な抗凝固療法を行うことができるようになった。しかし,これらの製剤はあくまでも緊急時に使用される薬剤のため,施設に一定数常備しておくことが求められるが,高価な薬剤であり,使用期限切れによる損失等も考慮しなくてはならない。

参考資料

1)Suzuki S, et al : Nine-Year Trend of Anticoagulation Use, Thromboembolic Events, and Major Bleeding in PatientsWith Non-Valvular Atrial Fibrillation - Shinken Database Analysis. Circ J 80 : 639-649, 2016.

2)ケイセントラ静注用インタビューフォーム

3)プリズバインド静注液インダビューフォーム

(日本大学病院 薬剤部 佐々木祐樹)