そこが知りたい 2018(平成30)年9月号

アドレナリン製剤とα遮断作用を 有する抗精神病薬との併用が可能に 

 厚生労働省2018年3月,アドレナリン製剤の使 用上の注意改訂を指示する通知を発出した。内容はアナフィラキシー治療においてはアドレナリン製剤とα遮断作用を有する抗精神病薬との併用禁忌を解除するといったものである。薬物・食物などを原因とするアナフィラキシーは発症すると急速に進行し死亡に至る重篤なアレルギー反応であり,治療の第 一選択はアドレナリンである。しかし,α遮断作用 を有する抗精神病薬と併用するとアドレナリン反転による低血圧があらわれることが薬理学的に想定さ れたため,これまで両薬剤の併用は禁忌とされていた。

 アドレナリン反転とはアドレナリンの血圧上昇作 用が血圧下降作用に反転する現象である。アドレナリンはα1受容体に結合すると血圧上昇作用を示すが,β2受容体に結合すると血圧下降作用を示す。通常ではα1受容体を介した作用が優位のため,アドレナリンの投与により血圧上昇作用を示すが,α1 受容体遮断薬の存在下ではβ2受容体を介した作用 が優位となり血圧下降作用を生じる。

 今回改訂に至った経緯には日本アレルギー学会からの強い要望を受け,厚生労働省が独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下,「機構」)に対して「α遮断作用を有する抗精神病薬服用中の患者に対する アナフィラキシー救急治療のためのアドレナリン製剤投与の安全性に係る調査」を依頼した。その結果,血圧低下関連の副作用はこれまでに5例報告があり,併用薬はハロペリドール1例,クロルプロマジン塩酸塩・プロメタジン塩酸塩・フェノバルビタール配合剤及びレボメプロマジンマレイン酸塩1例,アリピプラゾール1例,リスペリドン1例,リスペリドン及びクロルプロマジン塩酸塩1例であった。転帰はいずれも回復であった。また,日本小児心身医学会及び日本小児精神神経学会が実施した処方実態調 査では,調査対象の3病院においてアドレナリン製剤とリスペリドン又はアリピプラゾールが併用された症例は7例であったが,血圧低下は認めなかった旨が報告されている。  

 一方,海外における添付文書の記載は併用禁忌となっておらず,相互作用の項において併用によりアドレナリン反転を引き起こす旨,また処置として昇圧剤の投与が別途必要となることがある旨の記載と なっている。さらに海外における副作用報告を調査した結果,血圧低下関連の副作用は5例の報告があり,転帰は回復が4例及び不明が1例であった。また国内外のガイドラインにおいて,アドレナリンはアナフィラキシー治療の第一選択とされており,α遮断作用を有する抗精神病薬及びα遮断薬の併用禁忌についての記載はない。    

 これらの調査の結果を踏まえて,今回機構はアナフィラキシーは致死的な状態であり,迅速な救急処 置が必要とされることから,アドレナリン製剤とα遮断作用を有する抗精神病薬及びα遮断薬の併用禁忌を解除するのが適切と判断し改訂に至った。ただし,今回の改訂はアナフィラキシー治療の場合に限っており,薬理学的に血圧低下を生じるリスクがあることには十分に留意しなければならない。

 

参考資料

1)“平成29年度第12回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会資料”。厚生労働省。<https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000197895.html>(2018年6月1日参照)

(日本赤十字社医療センター薬剤部 田尻 優吏亜)