そこが知りたい 2018(平成30)年11月号

認知症の診断における 甲状腺機能検査の必要性について

 本邦における認知症診療の向上を目的として「認知症疾患診療ガイドライン2017」が作成されて,現在,一般医にとっては認知症の診療やケアなどを支 援する指針として活用されている。本ガイドラインは日本神経学会が中心となり日本認知症学会などを含めた6学会が合同で作成した統一見解のものであ るが,その活用には引き続き更なる周知が必要とさ れる1つの報告が出された。世界各国の認知症診療ガイドラインと同様に本ガイドラインでも,治療可能な疾患による認知症を鑑別する目的の1つとして,甲状腺機能検査が実施すべき項目として掲げられている。しかし,医療経済研究機構が2015年4月から2016年3月のレセプトデータを調査した報告によると,認知症の診断直後に抗認知症薬を新規に処方された65歳以上の患者が,医療機関34,492施設で262,279例存在した。その患者の甲状腺機能検査実施率が32.6%であり,約7割の患者に検査が実施されていないことが分かった。

 甲状腺ホルモンは脳神経細胞の分化による脳の形成・発達に重要な役割を担っている。甲状腺機能が低下していると,記憶力や認知機能にとって重要な脳海馬の歯状回の細胞サイクルが低下する。そのため臨床的には重度の甲状腺ホルモン低下により,脳萎縮を伴う認知障害やうつ病をはじめとする精神症状が現れる。その有病率は75歳以下の潜在性甲状腺機能低下症患者では,正常者に比べて認知障害が1.56倍,認知症が1.81倍多いことが示されている。上市されている抗認知症薬は認知障害の悪化を遅らせることができるが,正常脳機能への回復を促す効果はない。

 しかし,甲状腺機能低下症,橋本脳症,副腎不全,副甲状腺機能低下症,副甲状腺機能亢進症などの内分泌異常に伴う認知障害は原疾患の治療により改善することが多く,治癒可能な病態である。  

 認知症疾患診療ガイドラインでは治療可能な認知症を見逃さないためにも,認知症の病型診断を行うにあたり有用な血液検査として,血算,血液生化学,甲状腺ホルモン,電解質,空腹時血糖,ビタミンB12,葉酸を測定することが推奨されている。血清梅毒検査とHIV検査については,病歴上,診断が疑われる場合に実施し,また脳脊髄液検査は非典型病型など認知症の病型診断が困難な症例に実施する。  

 前述した甲状腺機能検査実施率の調査報告ではさらに,検査の実施率が認知症疾患医療センターや病院に比べ,診療所の方がその半分程度にまで低いことも分かった。このような治療可能な認知症が見過ごされないためにも,薬剤師として認知症治療薬服用中の患者に介入する際には,甲状腺機能検査実施の有無を確認するように一般医に周知・啓発を図っ ていきたい。

 

参考資料

・佐方信夫,奥村泰之:Clin. Interv. Aging. 13:1219〜1223(2018)

・森昌朋,佐藤哲郎:医学のあゆみ.Vol.260 No.9821 〜825(2017)

(順天堂東京江東高齢者医療センター薬剤科 高野 賢児)