そこが知りたい 2019(平成31)年1月号

抗インフルエンザウイルス薬の添付文書改訂について

 平成30年8月21日に厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課長通知(薬生安発0821第1号)が発出され,タミフル®の添付文書中,「警告」欄の異常行動に関する注意喚起の記載の削除等を含む改訂指示が出た。

 抗インフルエンザウイルス薬の異常行動に関する記載は,平成16年5月のタミフル®の添付文書改訂に遡る。改訂当時,因果関係は明確ではないという前置きの上,「重大な副作用」欄の「精神・神経症状」の一つとして異常行動が追記された。  

 その後,平成19年2月にタミフル®を服用した中学生が自宅マンションから転落死する事例が2例報道されたことを受け,自宅において療養を行う場合,異常行動発現のおそれや,少なくとも2日間は一人にならないように配慮することを患者・家族に説明するよう注意喚起された。同年3月には添付文書の「警告」欄に10代の患者にはハイリスク患者と判断 される場合を除き原則として使用を差し控える旨等が追記され,加えて「緊急安全性情報」(イエロー レター)が発出された。  

 タミフル®の服用と異常行動及び突然死との関係については,薬事・食品衛生審議会安全対策調査会や基礎/臨床ワーキンググループにおいて非臨床試験,疫学調査,臨床試験等の結果に基づき検討が行われ,平成21年6月にその報告書(平成21年報告書)が取りまとめられた。同報告書では10代のタミフル®の使用の差し控えを含む安全対策措置の継続は適当とされた。  

 報告書の策定以降もそれまでの知見を整理した上で,引き続きタミフル®の服用と異常行動の関係について検討された。非臨床試験では,体内動態,一般毒性,中枢神経系,体温,呼吸・循環器系等の観点から報告書の内容と同報告書以降に公表された非臨床試験の結果とで比較,検討されたが,現時点においても異常行動や突然死等との因果関係を直接的に支持するような結果は得られていないと結論付けている。また疫学調査では,前向き研究および後ろ向き研究のほか,副作用報告等の自発報告を用いた研究が行われ,先の報告書の結論と同様であった。それは服用の有無にかかわらず,異常行動はインフルエンザ自体に伴い発現するという報告や,投与後の精神神経系有害事象のリスクが高いという証拠は 確認されていないという報告である。しかしその一方で服用後にリスクが増大する傾向があるという報告もあり,最終的に様々な交絡因子及びバイアスによる解析の限界からタミフル®と異常行動の因果関係に明確な結論を出すことは困難とされた。  

 なおタミフル®以外の抗インフルエンザウイルス 薬については,10代の使用を差し控えるという安全対策措置はとられておらず,異常行動等に係る注意喚起は添付文書の「重要な基本的注意」欄への記載 に留まっている。また欧米のタミフル®の添付文書では,使用時に異常行動が報告されていることや,精神症状は服用の有無にかかわらずインフルエンザ に随伴する症状であること,そして患者を観察すること及び精神神経症状が生じた場合には個別の患者ごとに使用継続のリスクとベネフィットを評価すること等が記載されている。ただし,日本の添付文書 とは異なり,10代での使用の差し控えはなされていない。今回の薬生安通知はこのような背景もあり, 抗インフルエンザウイルス薬の添付文書の記載内容 を統一するための改訂指示となった。  

 抗インフルエンザウイルス薬を取り巻く情勢は,平成29年に新しい作用機序のゾフルーザ®が上市された他,タミフル®の後発品が平成30年6月に薬価収載される等刻々と変化している。今回の抗インフルエンザウイルス薬の改訂内容だけでなく,改訂に至った経緯を理解することで,より有効な情報提供ができるものと考える。

 

参考資料

1)厚生労働省 薬生安発0821第1号: 抗インフルエンザウ イルス薬の「使用上の注意」の改訂について

2)厚生労働省 薬事・食品衛生審議会(医薬品等安全対 策部会安全対策調査会): タミフルと異常行動等の関連 に係る報告書, 2018

(東京大学保健・健康推進本部 本郷地区 梅澤 俊介)