そこが知りたい 2019(平成31)年5月号

アルコール依存症における減酒薬

 アルコール依存症は,多量な飲酒を繰り返すことで飲酒したいという欲求が強くなり,飲酒行動をコントロールすることが難しくなる疾患である。健康や仕事,家庭生活に重大な支障をきたすことで,社会的・経済的な影響が大きいとされている。

 アルコール依存症に対する治療はこれまで断酒の達成と継続を目標とし,専門医療機関を中心に行われてきた。しかしながら,断酒を治療目標とする事に抵抗感を持つ患者(特に初期のアルコール依存症患者)との治療ギャップが大きく,わが国では治療を受けていないアルコール依存症患者が多く存在している。これに対し近年,すぐに飲酒をやめることができない場合は飲酒量を減らすことから始め,飲酒による害を出来るだけ減らすという“ハームリダクション”の概念が提唱されてきた。

 このような中,2019年1月に国内では初となる減酒薬ナルメフェンが製造販売承認された。適応は「アルコール依存症における飲酒量の低減」であり,用法用量は1回10mgを飲酒の1~2時間前に経口投 与する。ただしアルコール依存症治療の主体は心理社会的治療であることから,服薬遵守および飲酒量の低減を目的とした心理社会的治療と併用する。     

 ナルメフェンはμオピオイド受容体及びδオピオ イド受容体に対しては拮抗薬として,κオピオイド 受容体に対しては部分的作動薬として活性を有する薬剤である。アルコール依存症は飲酒により得られる快の情動を求めて飲酒する“正の強化”と,アルコールを繰り返し摂取することで次第に快が減少し代償的に不快が強くなり不快を避けるために飲酒を する“負の強化”の2つにより飲酒行動をコントロールする能力が障害され進展すると考えられている。アルコールによる“強化作用”には内因性オピオイドの関与が知られており,本剤はオピオイド受容体に作用し,内因性オピオイドにより引き起こされる快・不快の情動を調節することにより飲酒量の低減効果を発揮すると考えられている。

 国内の第Ⅲ相臨床試験では主要評価項目である多 量飲酒日数(1日のアルコール消費量が男性で60g,女性で40gを超えた日の1ヵ月当たりの日数)の ベースラインからの変化量は,プラセボ群-7.91日/月に対して,ナルメフェン10mg群-12.09日/月と有意に減少した。またプラセボ群の-7.91日/月という変化量からアルコール依存症治療は心理社会的治療が重要であることが読みとれる。主な副作用は悪心,浮動性めまい,傾眠,頭痛などであり,重篤なものは認められていない。併用禁忌薬としてはオピオイド系薬剤があり,両薬剤の併用によりオピオイドの離脱症状を起こすおそれ,または鎮痛作用を減弱させるおそれがあるため留意したい。

 国内の最新のガイドラインにおいては最終的な治療目標は原則的に断酒の達成とその継続とした上で,治療目標が飲酒量低減の場合は推奨事項として以下を掲げている。

〇明確な合併症を有しないケースでは,飲酒量低減が治療目標になりうる。

〇本人が断酒を希望しない場合には,飲酒量低減を暫定的な治療目標にすることも考慮する。その際,飲酒量低減がうまくいかない場合には断酒に目標を切り替える

〇治療薬物としてナルメフェンを考慮する。

〇毎日の飲酒量のモニタリングなどの心理行動療法の併用が重要である。  

 昨今,マスメディアによるアルコールを起因とした事故や事件の報道が後を絶たない。本剤が飲酒量低減治療の新たな選択肢となることにより,アルコール依存症患者の治療に貢献することを期待すると同時に,われわれも日頃から節度ある適度な飲酒を心掛けたい。 □主な心理社会的治療

・認知行動療法

  これまでの飲酒に対する考え方や捉え方を患者さん自身が検討し,考え方や捉え方を変えることで自分の行動や感情,生活の改善を促す。

・集団精神療法

 複数の患者さんが集まり,飲酒を中心とした様々なテーマで話し合いをすることで互いに良い影響を与える。飲酒問題を整理することから始め,徐々に飲酒に対する適切な考え方を身に付けていく。

・動機付け面接法

 治療への動機づけを高めるための技法。患者さんの「飲酒問題を改善したい」という気持ちを強化し,行動の変化を促す。

・家族療法

 患者さん自身の回復だけではなく家族の回復も目指す。アルコール依存症の正しい理解や回復のプロセスを理解し,適切な対処を身につける。家族支援が適切に行われることにより患者さんの回復につながる。

□アルコール20gあたりのお酒の種類と量

・ビール 中瓶1本(500mL)

・ワイン グラス2杯(200mL)

・日本酒 1合(180mL)

 

参考資料

1)樋口進,齋藤利和,湯本洋介:新アルコール・薬物使 用障害の診断治療ガイドライン

2)大塚製薬株式会社:セリンクロ®錠10mgインタビュー フォーム(第1版)

(日本赤十字社医療センター薬剤部 田尻 優吏亜)