そこが知りたい 2019(令和元)年9月号

高齢化社会におけるサルコペニア対策について

 本邦の高齢化率(総人口に占める65歳以上の人口割合)が2005年に21%を超え,これを受けて世界初の超高齢社会を迎えたが,内閣府が公表した平成30年度高齢社会白書では2017年の高齢化率が更に増加し27.7%と発表された。推進している「健康日本21」(=国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針)では高齢者の健康に関する項目として,ロコモティブシンドロームの認知度を高め,低栄養傾向(BMI 20以下)の高齢者の増加を抑え,足腰に痛みのある高齢者の割合を減少させることなどを目標として掲げている。その中で,高齢者のフレイルティやサルコペニア予防と栄養の関係性が注目されている。フレイルティとは虚弱・老衰・脆弱を意味しており,それを誘発,あるいは悪化させている要因の一つとしてサルコペニアが存在し,その対策が重要視されている。

 サルコペニアとはギリシャ語の「筋肉」を表す「Sarx」と,「喪失」を表す「Penia」を組み合わせた造語であり,世界保健機構が2016年に治療が必要な疾患と位置づけて正式な病名と認め,本邦では2018年4月に傷病名として使用されるようになった。サルコペニアは疾患としては新しい概念故に,有効な治療や予防法などが十分に確立されていないのが現状である。日本サルコペニア・フレイル学会が策定した診療ガイドラインによると,その診断には筋肉量低下と共に握力低下あるいは歩行速度低下のいずれかひとつを含むことを条件とする欧州ワーキンググループの基準を基本とした,アジアワーキンググループの診断基準(図1)を日常診療に用いることを推奨している。

 サルコペニアの危険因子は加齢が重要な要因となっているが,その他に活動不足,疾患(代謝疾患,特に2型糖尿病,消耗性疾患),栄養不良があり,その予防や治療には運動とタンパク質やビタミンDの摂取が挙げられている。タンパク質は予防として適正体重1kg あたり1g 以上/ 日,治療としては1.2~1.5g/ 日の摂取が推奨される。筋肉の合成に必要

な必須アミノ酸のロイシンを含むアミノ酸補充療法は高齢者の安静臥床による骨格筋タンパク質合成低下の抑制,身体機能低下の抑制が認められている。栄養面での単独介入だけでは骨格筋量の変化は認められず,その効果は限定的であるが高齢者の筋量維持には有効と考えられる。

 ビタミンD は骨代謝に対する作用のみならず筋肉に対する直接作用が示されており,サルコペニアの予防や治療において特に高齢者には必要とされる。高齢者ではビタミンD不足が潜在しており,それは紫外線による皮膚でのビタミンD産生能低下,腎臓における1α水酸化酵素活性の低下,食事量の低下,小腸における活性型ビタミンDの反応性低下がもた

らすカルシウム吸収低下などが原因である。このように骨粗鬆症や転倒予防の観点からも摂取が推奨され,800IU 以上/ 日のビタミンD摂取が示されている。臨床応用に近い予防・治療法として,ビタミンD(800IU)とロイシン高配合アミノ酸の摂取により,初期サルコペニアの高齢者に対し,四肢骨格筋量の増加や椅子立ち座りテストの所要時間を短縮させた報告や,アルファカルシドール投与による筋量の増加を示した報告などがある。

 サルコペニアの危険因子としてさらに危惧されているのが,入院患者における不適切な安静や栄養管理が原因となる医原性のサルコペニアであり,従来から問題視されている。その防止策として早期の離床・経口摂取,必要に応じたベッドサイドのリハビリを開始して活動を促すと共に,適切な栄養管理として末梢静脈栄養の場合は禁忌でない限り,早期にアミノ酸製剤と脂肪乳剤を使用するなど,末梢輸液の管理が求められている。病院薬剤師として医原性サルコペニア防止に向けた積極的な活動が望まれる。

参考資料

・小川純人:医薬ジャーナル.55: 44-45(2019)

・宮城正行:臨床整形外科.54: 265-269(2019)

・サルコペニア診療ガイドライン2017年版.ライフサイエンス出版(東京)

(順天堂東京江東高齢者医療センター薬剤科 高野 賢児)