そこが知りたい2020(令和2)年1月号

新しいうつ病の治療法rTMS(repetitive TranscranialMagnetic Stimulation) について

 2019年6月より,うつ病の症状の改善を図る治療法である反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)が保険適用となった。

 従来,中等症以上のうつ病には,抗うつ薬による単剤療法が推奨されている。抗うつ薬による薬物療法に反応しない場合,⑴他の抗うつ薬への切り替え,⑵増強療法,⑶電気けいれん療法,などの治療選択肢が検討される。rTMS 療法は,抗うつ薬による十分な薬物療法を行っても,期待された治療効果が得られない18歳以上の患者が対象で,かつ急性期治療に用いる治療法であり,現時点で維持療法(再燃・再発予防)に関する有効性のエビデンスはない。切迫した希死念慮や精神病症状,緊張病症状,速やかに改善が求められる身体的および精神医学的状態には,rTMS 療法の適応はなく,電気けいれん療法が優先される。

 rTMS は,患者の頭部に磁気刺激装置をあて,変動磁場を用いて脳皮質に過電流を誘導し,ニューロンを刺激することによって,低侵襲的に大脳皮質や皮質下の活動を修飾する技術である。患者の治療は,左背外側前頭前野を標的として患者の頭部にコイルを近接させて経頭蓋的に磁気刺激を与える。コイルの設置位置及び磁気刺激強度は患者ごとに異なり,親指の攣縮を誘発させる運動野を探索して位置を決定する。

 日本で使用可能な機器は,米国の医療機器メーカーのNeuronetics 社が開発した「NeuroStar TMS 治療装置」であり,帝人ファーマが販売している。使用方法は,1日1回の磁気刺激を週5回,4週間から6週間実施する。1回の治療にかかる時間は40分程度である。治療終了の際は刺激の回数を週3回,週2回,週1回と3週間かけて漸減することが推奨されている。

 海外にて行われた臨床試験においては,薬剤抵抗性の成人のうつ病患者に対して,寛解率が治療群14.1%,対象群5.1%となり,治療群の寛解率が統計学的に有意に高い結果となった。ただし,日本においてはうつ病に対するrTMS 療法のGCP に準拠した有効性試験は実施されていない。

 頻度の高い副作用は,頭皮痛・刺激痛,顔面の不快感(30%前後),頸部痛・肩こり(10%前後),頭痛(10%未満)であり,重篤な副作用としては,けいれん発作(0.1%未満),失神(頻度不明)が挙げられている。

 保険診療としてこの治療法を実施するためには,認知行動療法の施設基準を満たし,かつ下記の施設基準を届け出た医療機関に限定されている。

・精神科救急搬送患者地域連携紹介加算

・精神科救急搬送患者地域連携受入加算

・精神科急性期医師配置加算

・精神科救急入院料

・精神科急性期治療病棟入院料

・精神科救急・合併症入院料

・精神科リエゾンチーム加算

 また,日本精神神経学会が作成した,反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)適正使用指針に従い,実施する医師に対し,rTMS 実施者講習会と実技講習会の受講など,指針の遵守が求められている。

 厚生労働省の調査によると,国内のうつ病患者数は年々増加し,受診者で約73万人,未受診の潜在患者まで含めると250万人以上とされ,そのうち約3割が通常の抗うつ薬では症状が改善されにくいうつ病といわれている。rTMS は薬剤抵抗性のうつ病患者に対する治療法として,今後ニーズが高まっていくと考えられる。

 

参考資料

・公益社団法人日本精神神経学会 新医療機器使用要件等基準策定事業 rTMS 適正使用指針作成ワーキンググループ:平成29年度新医療機器使用要件等基準策定事業(反復経頭蓋磁気刺激装置)事業報告書

・NeuroStar TMS 治療装置 添付文書 2019年7月(第6版)

・帝人ファーマ株式会社ホームページ‐製品情報‐NeuroStar TMS 治療装置(https://medical.teijin-pharma.co.jp/zaitaku/product/neurostar/

(東京医科大学病院 宮澤 祐輝)