そこが知りたい2020(令和2)年3月号

医療用大麻と大麻規制について

 近年,医療用大麻という言葉がメディア媒体を通して一般的にも見聞する機会がある。

 医療用大麻とは,特定の疾病において大麻使用を認めることだけでなく,医療用に抽出された大麻成分や,創薬により合成されたカンナビノイド受容体作動薬などを含むとされている。医療用大麻としては英国のGW ファーマシューティカルズ社が製造販売を行っており,2010年に英国では多発性硬化症を伴う神経因性疼痛に対してナビキシモルス(Sativex®)が,そして,2018年に米国において難治性のてんかんであるレノックス・ガストー症候群やドラベ症候群に対するカンナビジオール(以下,CBD)製剤(Epidiolex®)が承認を受けている。

 大麻草の成分はカンナビノイド類が約140種類,アルカロイド類やフラボノイド類,テルペン類などが約700種類以上含まれているとされており,そのうち,幻覚など向精神作用を有するテトラヒドロカンナビノール(以下,THC)と向精神作用をほぼ持たず鎮痛作用や抗けいれん作用,食欲増進作用,抗炎症作用を有するCBD が主要な薬理作用の活性

物質と考えられている。このように大麻草は多種類の成分を含有するが故に多彩な薬理作用を発揮し,その作用機序が明らかとなっていないものが多く残されている。

 大麻が国際的に規制対象となったのは1925年の国際アヘン条約であり,それに追従するかたちで日本でもインド大麻が規制された。大麻草のほとんどの品種からはTHC が検出されるが,その含有量は大きく異なっており,インド大麻はTHC 含有量が高いのもとして称されていた。日本では古くから繊維原料となる大麻草が栽培され,神社のしめ縄や下駄の鼻緒,麻暖簾などの生活文化や,種子が麻子仁として緩下,利尿,乳汁分泌促進など漢方として医療に応用されてきた。このような背景もあり,日本の大麻取締法では大麻草の成熟した茎,及びその茎から作られる繊維などの製品(樹脂を除く)と,大麻草の種子及びその製品は大麻の規制対象から除かれているが,大麻から製造された医薬品の施用は何人も禁止されている。そのため,研究であっても医薬品の開発を目的としての人への臨床試験は認められていない。また,麻薬及び向精神薬取締法では,THC 及びこの化学的合成品は規制の対象となり,大麻草の成熟した茎から抽出されたCBD は規制の対象とならない。

 米国では,カリフォルニア州を皮切りに医療用大麻が一定の規制下のもと使用が認められ,現在では嗜好品の大麻も含めて30余りの州に広がっている。しかし,その現状は極めて混沌としており,連邦法では大麻は違法薬物(ヘロインと同じ最も規制の厳しいスケジュールⅠに分類。医学的用途が無く乱用の危険性があり,身体的・精神的依存性を持つ最も危険な規制薬物)と定められていることから,医療用大麻の使用を完全に違法とする州もある。CBD製剤については,特定の疾患の治療薬として使用を認めており,このCBD のみを医療用として認める州など,大麻規制の状況が異なっている。

 そして,大麻合法化後の社会状況においては一定の規制を設けても,結果として無許可の大麻草栽培が増加し,必ずしも大麻の適正な流通管理が出来なかった。また,米国の国立薬物乱用研究所(NationalInstitute on Drug Abuse)のレポートによると,未成年者のたばこ喫煙者の割合が1997年以降は減少傾向に対し,大麻使用者の割合は減少することなく推移している。そして,2009年以降は大麻使用者の割合がたばこ喫煙者の割合を超えてしまい,一般人における大麻の使用が浸透していると危惧されている。

 本邦にて栽培されているTHC 含有量の少ない繊維原料型の大麻草であっても,継代したり栽培環境を変えたりすることで十分なTHC を含有する品種を生産しうる可能性があることも事実とされており,また最近流通している大麻のTHC 含有量増加が報告されている。

 米国における医療用大麻をとりまく社会的影響を理解するとともに,大麻成分やカンナビノイドの臨床応用と同じく,有害性についての研究はより一層重要になると考える。

 

参考資料

・第49回日本神経精神薬理学会・第29回日本臨床精神神経薬理学会合同年会シンポジウム抄録:193 -195(2019)

・船山信次:アサと麻と大麻,ファルマシア,52,827-831(2016)

・斎藤 淳:大麻合法化, 分子精神医学,17,357-59(2017)

・厚生労働省ホームページ:大麻・けしの見分け方

(順天堂東京江東高齢者医療センター薬剤科 高野 賢児)