そこが知りたい2020(令和2)年3月号

血友病の定期補充療法について

 血友病は先天性凝固異常症のなかで最も頻度の高い疾患であり,第Ⅷ因子が不足している血友病A,第Ⅸ因子が不足している血友病B がよく知られている。従来の血友病の止血治療は出血する度に止血が確認されるまで凝固因子製剤を投与する出血時補充療法であったが,出血イベントの有無に関わらず非出血時に欠乏する凝固因子を長期間にわたり定期的に補充し出血を抑制させる定期補充療法が行われるようになり,パラダイムシフトが生じた。

 血友病の定期補充療法は重症血友病患者に対し,第Ⅷ因子または第Ⅸ因子活性を1% 以上に維持し,中等症以上にすることを目的に行われる。定期補充療法には半減期標準型製剤(standard half life 製剤;SHL 製剤) と半減期延長型製剤(extendedhalf life 製剤;EHL 製剤)が使用される。

 従来SHL 製剤が使用されていたが,週2~3回静脈投与する必要があり,頻回の投与は患者にストレスがかかるため,アドヒアランスの低下が問題となっていた。近年,半減期の長いEHL 製剤の登場により,第Ⅷ因子では約1.5倍,第Ⅸ因子では約3~5倍半減期が延長され,投与頻度の減少や目標トラフ値を下回る時間の減少,投与時間の柔軟な設定が可能となり,患者のQOL 向上に寄与している。2019年現在,定期補充療法で使用される主なEHL製剤を表に示す。

 半減期を延長させるための主な手法として,ポリエチレングリコール(polyethylene glycol;PEG)化と胎児性ガンマ免疫グロブリン受容体(neonatal Fc receptor;FcRn)の性質を利用した融合蛋白を作成する方法の2種類がある。PEG 化は高分子物質であるPEG を結合させることで,腎臓からの排泄の阻害,凝固因子の不活化反応の阻害,代謝関連のレセプターとの親和性を低下させる他,免疫細胞からの分解反応を受けにくくすることにより血液中での安定性を高め,半減期が延長する。一方のFcRn は血液中から内皮細胞に取り込まれたIgG をエンドソームからリサイクルする役割を果たすレセプターである。通常内皮細胞に取り込まれたIgGは細胞内のリソソームによる分解を受けるが,エンドソームのFcRn にFc 領域で結合したIgG は血液中へ戻される(=リサイクル)。この性質を利用することで,IgG と凝固因子で構成されている融合蛋白は細胞内でのリソソームによる分解を回避することができ,半減期が延長する仕組みとなっている。

 EHL 製剤の登場で今後の定期補充療法はすべてEHL 製剤に切り替わるというわけではなく,患者の活動強度や活動時期に合わせてSHL 製剤とEHL製剤を柔軟に使い分ける必要がある。日常的に活動性があまり高くない場合にはEHL 製剤が向いているが,連日活動負荷が高い場合にはEHL 製剤よりもSHL 製剤を頻回投与した方が効率よく出血を抑制できる。こうした個別化治療を進める上で患者個人の活動強度やライフスタイル,凝固因子活性の上昇値や半減期などを把握することが重要となる。

 定期補充療法により血友病性関節症の発症を抑制し健常人とほぼ同等の日常生活が可能となったが,製剤の頻回投与とそれに関わる血管確保の問題や投与後に発生する同種抗体(インヒビター)の存在などが課題となっている。それらの課題を克服すべく,現在非凝固因子治療薬の開発や遺伝子治療の治験も行われており,治療法も日々進化している。古くから知られている血友病だが,薬剤師として最新の知識を身につけておきたい。

 

参考資料

・天野景裕: Pharma Medica,37,25-29(2019)

(東京大学保健・健康推進本部 本郷地区 梅澤 俊介)