そこが知りたい2021(令和3)年1月号

薬剤性の胃石 ―ビプレッソ®徐放錠の注意喚起の意味とは―

 胃石とは未消化の物質が胃液などの消化液で変性し,凝集して形成された結石のことである。その症状は無症状の場合もあるが,心窩部痛,嘔気・嘔吐,食欲不振,腹部膨満感などの不定愁訴も多く,胃潰瘍や幽門閉塞,腸管に下降すれば腸閉塞を合併することがある。胃石はその構成成分から,植物胃石,毛髪胃石,薬物胃石,混合胃石などに分類される。欧米の報告例では毛髪の異食による毛髪胃石が多く,精神疾患の病歴を持つ若年女性においてその傾向がみられる。本邦では食生活習慣が原因となることが多く,植物の樹皮・根・果実・種子に含まれる渋み成分のタンニンに由来する植物胃石がある。そのなかでも柿による胃石が7割近く占めており,タンニンの一種である可溶性ジブオールが胃酸により不溶性となることで,胃内容物と混合され柿胃石が形成される。柿以外には,かぼちゃ,栗,緑茶,豆類,干し葡萄,昆布,わかめ,セロリなどが誘因となることもある。

 薬剤性の胃石として,2020年9月にビプレッソ®徐放錠(一般名:クエチアピンフマル酸塩徐放錠)の使用上の注意が改訂された。海外においてクエチアピン徐放錠を大量に服用した際に胃石を形成した症例が集積され,本剤においても起こり得る事象であることから,過量投与の項目に「胃石を形成した症例が報告されている」こと,及びその処置として「胃石には粘稠性があることが報告されているため,通常の胃洗浄による除去は効果的ではない場合があり,内視鏡による除去を考慮すること」と注意喚起が追記された。薬剤性の胃石が生じる要因としていくつかの説が挙げられている。そのうち徐放性製剤については,薬剤が胃内で十分に溶解しない場合に,それが塊となって胃石を形成すると考えられているが,2020年9月の現時点において添付文書に「胃石」が記されているのは12薬品4成分(表参照)であり,上市されている徐放性製剤の一部にすぎない。

 また,酢酸セルロースが添加物で含まれていると,これが胃内で蓄積して胃石を形成するとも考えられるが,酢酸セルロースを組成に含む薬剤はインヴェガ®錠とコンサータ®錠のみである。他にはアルギン酸ナトリウムとホスホマイシンカルシウム水和物との併用による胃石が報告されており,蛍光X 線分析によるとその主成分はアルギン酸カルシウムであった。アルギン酸ナトリウム水溶液は2価以上の金属塩を加えると沈殿する性質を持つ。マグネシウム塩は沈殿せず水溶性であるため胃石となる可能性は低いが,鉄剤には注意が必要と考えられる。これらの薬剤には胃石が生じることへの注意喚起が添付文書には記載されていないが,胃石が形成されやすくなる胃の蠕動運動障害(筋ジストロフィー,糖尿病性自律神経障害,胃外科手術後,高齢者,長期臥床,抗コリン薬併用など)や,徐放性製剤の過量服用などは危険因子として注意が必要と考える。

 今回のビプレッソ徐放錠は双極性障害のうつ病相に対して使用される薬剤である。双極性障害はうつ病相において自殺の危険性が高く,25~50%は自殺企図に及ぶといわれている。自殺企図により過量服用に至る可能性を考慮すると,従来までに報告されてきた薬剤性の胃石のなかでも特に留意が必要であり,その過量服用にあたっては,傾眠や鎮静,頻脈,低血圧などの症状に加え,心窩部痛やイレウスを疑う消化器症状を伴う場合には胃石の形成を疑い腹部CT 検査による診断と内視鏡的破砕除去術,外科手術の適応を早期判断することが大切である。

参考資料

・ビプレッソ®徐放錠50mg・150mg 医薬品インタビューフォーム2020年9月改訂,アステラス製薬

・別冊日本臨床:消化管症候群,第3版,133-137(2019),日本臨床社(大阪)

・小児科臨床.Vol.69 No. 1, 107-111(2016)

(順天堂東京江東高齢者医療センター薬剤科 高野賢児)