そこが知りたい2021(令和3)年3月号

HPV ワクチンの新たな展開

 ヒトパピローマウイルス(Human papillomavirus:以下,HPV)はパピローマウイルス科に属する環状二本鎖DNA ウイルスで,現在180種類以上の遺伝子型が確認されている。HPV は組織特異性が高く,主にヒトの上皮及び粘膜に感染することで扁平上皮内病変を生じさせる。HPV 感染の多くは一過性で感染しても治癒するが,一部は持続感染することにより,子宮頸がんや肛門がん,尖圭コンジローマ等に発展することがある。なかでも子宮頸がんは高リスク型(発がん性)のHPV 型である16型,18型が約7割を,尖圭コンジローマは低リスク型(非発がん性)の6型,11型が約9割を占めており,これらのHPV 型を網羅するHPV ワクチンを接種することで疾患予防につながると考えられている。

 HPV ワクチンはHPV 型のL1たん白質ウイルス様粒子(VLP)を有効成分としており,各HPV 型のL1VLP に対する中和抗体が誘導されることで予防効果を発揮する。HPV の主な感染ルートは性的接触であるため,初交前の年代(10~14歳)の接種が最も効果的とされるが,15歳~45歳の接種も推奨されている。HPV ワクチンは1年以内に3回の接種を完了することで,少なくとも10年以上は抗体陽性率を維持できるが,接種年齢が上がるにつれ抗体陽性率は低下する。

 現在本邦では16/18型の2価ワクチン(サーバリックス®),6/11/16/18型の4価ワクチン(ガーダシル®),6/11/16/18/31/33/45/52 /58型の9価ワクチン(シルガード®9)の3種類が承認されているが,2020年12月にガーダシル®の用法が「9歳以上の女性に」から「9歳以上の者に」に変更され,男性の肛門がんと尖圭コンジローマの予防を主目的とした適応が追加された。ガーダシル®は本邦を含め多くの国・地域で承認されているが,男性適応についても100以上の国・地域で承認されており,今回の適応追加で世界とのワクチンギャップがまた一歩縮まったといえる。しかし,男性へのHPV ワクチンの定期接種化についてはこれから審議されることとなっている他,欧米ではすでに9価ワクチンが標準となっており,今後の課題も山積している。

 またHPV ワクチンと切っても切り離せないのが副反応の存在である。2009年から本邦でも子宮頸がんの予防目的で2価のHPV ワクチンが使用されるようになり,2013年度から定期接種化されたが,接種後の複合性局所疼痛症候群(CRPS)や広範囲にわたる疼痛等の副反応の報告が相次いだため,2013年6月に国による積極的勧奨が中止されて以降,HPV ワクチンは定期接種としての位置付けを維持しているものの,積極的勧奨差し控え前には70%程度あった国内のHPV ワクチン接種率は1%未満へ大幅に低下している。

 CRPS および広範囲にわたる疼痛の発現頻度は不明で,海外ではHPV ワクチンと副反応の因果関係はなく,接種に問題はないとしているが,日本では未だ因果関係が不明としてHPV ワクチンの接種に不安を感じる人も少なくない。近年,子宮頸がんの罹患率は上昇傾向にあり,HPV ワクチンにて予防できるはずの子宮頸がん等の疾患を抱えるリスクが高まっていることに対し,有効な手段を打ち出せていないのが現状である。

 今回,男性に対する4価HPV ワクチン接種が承認されたが,使用にあたっては,一定期間,接種した男性の可能な限り全例について,安全性に関する情報の検出・確認を行うことを目的とした使用成績調査が行われる旨の通知が発出されている。医療に携わる者としてHPV ワクチンの適正使用を推進していくとともにその必要性について改めて考えてみたい。

 

参考資料

・日本ワクチン産業協会編;予防接種に関するQ&A 集,249-266(2020)

(東京大学保健・健康推進本部 本郷地区 梅澤俊介)