そこが知りたい2021(令和3)年3月号

小児けいれん重積状態に対する初期治療選択肢の追加

 てんかん重積状態(status epilepticus:SE)は,小児救急医療の現場ではよく見られ,そして時に重症化して全身管理を要することもある救急疾患である。けいれん発作の場合,発作が5分以上続くとSE と診断し,速やかに治療を開始することが推奨されている。またけいれん発作が30分以上続くと長期的な後遺障害を残す可能性が指摘されており,SE 治療の目的は,けいれん発症からできるだけ早く,かつ安全に発作を収束させることにある。

 「小児けいれん重積治療ガイドライン2017」および「てんかん診療ガイドライン2018」では,ジアゼパム(DZP)静脈内投与とミダゾラム(MDL)静脈内投与をSE 治療の第一選択薬として推奨しているが,緊急治療を要する乳幼児では静脈確保が困難な場合も多く,両ガイドラインではその場合,適応外使用であるDZP 注腸やMDL の鼻腔・口腔内投与,筋注も推奨している。ただし「小児けいれん重積治療ガイドライン2017」では,CQ 1としてMDL の鼻腔内・頬粘膜投与は海外ではエビデンスレベルの高い研究があるが,日本の家庭での対応に使用できる剤形がないとして「推奨グレードなし」としている(表参照)。このような状況で日本の小児救急医療ではMDL 注射剤の鼻腔内への噴霧などが,やむを得ず行われてきた。

 また,日本では発作開始から医療機関での治療開始までに30分以上経過している事例が多いことが報告されており,SE の既往のある児において重積化を防ぐため早期に治療を開始するには医療機関への搬送前に保護者等による投薬が必要になる。しかしガイドラインの指摘どおり,これまで重積化を防ぐための有効で適切な剤形の薬剤がなかった。国内ではSE に対して医療機関外で使用可能な治療薬として抱水クロラールの坐剤および注腸剤,DZP およびフェノバルビタール(PB)の坐剤があるが,抱水クロラールおよびDZP は急性けいれん発作に対する早期抑制効果の明確なエビデンスはないとされている。またPB は単回投与ではけいれん抑制効果が期待できないこと,医療機関搬送後のベンゾジアゼピン治療時に呼吸抑制等の有害事象を強めるおそれがあることから,急性けいれん発作治療の目的では推奨されていない。

 一方,海外ではMDL 口腔用液Buccolam®が,2011年9月に欧州において生後3ヵ月以上18歳未満の持続性けいれん発作に対して承認され,2020年2月現在,欧州を中心に33ヵ国で使用されている。日本でもこの度MDL 頬粘膜投与製剤であるブコラム®口腔用液が承認され,2020年12月より日本の小児救急医療の現場でも使用できるようになった。

 ブコラム®口腔用液は,プレフィルドシリンジ製剤でシングルユースとなっており,MDL を1本あたり2.5mg,5mg,7.5mg,10mg 含有する4規格がある。用法・用量は,修正在胎52週(在胎週数+出生後週数)以上1歳未満の患者にはMDL として1回2.5mg,1歳以上5歳未満の患者には1回5mg,5歳以上10歳未満の患者には1回7.5mg,10歳以上18歳未満の患者には1回10mg を頬粘膜に投与する。欧州では2.5mg 製剤の年齢下限は,生後3ヵ月として修正在胎週数の制限はないが,生後3ヵ月で修正在胎週数52週未満の乳児に本剤を投与した場合,MDL 全身曝露量が高くなる可能性や中枢神経系への抑制がより強くなる可能性があること,日本は海外と比較して周産期死亡率が極めて低いことなどから,日本においては使用の年齢下限が修正在胎52週とされた。

 本剤は,保護者やそれに代わる適切な者による投与が,投与の必要な症状の判断方法,本剤の保存方法,使用方法,使用時に発現する可能性のある副作用等を理解したうえで病院外での自己投与が認められている。しかし追加投与については,呼吸抑制や循環抑制に対する速やかな対応が困難なことから病院外では認められていない。また原則として本剤投与後は救急搬送の手配を行い,10分以内に発作が停止しない場合や意識消失が認められたなどの場合は医療機関に救急搬送すること,その際に本剤投与の確認のため使用済みのシリンジを医療従事者へ提示することとされている。なお,生後3~6ヵ月の乳児は呼吸抑制のリスクが高いことから日本においても海外においても,救急蘇生のための医療機器,薬剤等が使用可能な病院内での使用に限られ,自己投与は認められていない。

 SE の頻度は年齢層,地域,人種によって異なり,日本では岡山市の生後1ヵ月以上15歳未満の小児を対象とした調査において,初発SE の頻度は10万人/ 年あたり41.3で,2歳までが全体の60%を占めたとの報告がある。SE の好発年齢を考えると保護者だけではなく,学校や保育園,幼稚園などで教職員等による使用頻度も今後高くなることが予想される。

 本剤は簡便に使用でき,けいれん発作を早期に抑え,後遺症を残さないことが期待される一方,頬粘膜投与はこれまでにない投与経路であり,使用方法や保管方法(有効成分がシリンジの構成部品(プランジャー先端ゴム部分)に吸収されるおそれがあるため,保管の際は透明ケースにいれ,プラスチックチューブのふた側を上向きにして立てて保管する)の指導を含め本剤の適正使用への貢献が薬剤師には求められる。

参考資料

・ブコラム®口腔用液 審査結果報告書(令和2年9月3日)

・日本小児神経学会:小児けいれん重積治療ガイドライン2017(診断と治療社)

・Buccolam EPAR summary(EMA)(https://www.ema.europa.eu/en/documents/

overview/buccolam-epar-summary-public_en.pdf)

(都立北療育医療センター薬剤検査科 大村由紀子)