そこが知りたい2021(令和3)年5月号

フレイルと漢方薬について

 内閣府が公表した令和2年度版高齢社会白書によると,2019年10月1日現在,日本における65歳以上の人口は3,589万人となり,総人口に占める割合(高齢化率)も28.4%となった。先進諸国の高齢化率と比較すると,日本は1980年代までは下位,90年代にはほぼ中位であったが,2005年には最も高い水準となり,世界に先駆けて超高齢社会に直面している。日本人の平均寿命と健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)は10年ほど乖離しており,この期間は介護・支援を必要とする障害を抱えていると考えられ,健康寿命を延ばすには要介護状態への移行を予防することが必要である。2014年,日本老年医学会により健康と要介護の中間状態を意味する用語として「フレイル」が提唱された。フレイルは介護の危険度が高いものの自立生活を送れる状態であり,早期発見と適切な介入によって再び健康を取り戻せる可能性がある。フレイルの予防・対策としては「フレイル診療ガイド2018年度版」において栄養・食事・運動による介入が推奨されており,薬についてはむしろ多剤投与(ポリファーマシー)がフレイル発症と関連するとされている。しかし,臓器特異的に作用する西洋薬ではポリファーマシーに陥りやすく,フレイルへの薬物療法による介入は難しいと考えられている。

 漢方薬は西洋薬と比較すると複数の成分を含み,全身的に作用して体のバランスを整え,回復させることを目的としているため,フレイル治療への有効性が期待されている。フレイルは「加齢に伴う予備能力低下のため,ストレスに対する回復力が低下した状態」と定義されるが,漢方医学では「虚証」に該当する。これは体力が低下して低代謝となり免疫機能が低下している状態であるので,食欲や気力を改善する人参や黄耆などを含む参耆剤(じんぎざい)や代謝を改善する腎気剤などの補剤というグループを用いることで体力の改善を促進することができる。

 参耆剤としては補中益気湯,十全大補湯,人参養栄湯などが挙げられる。補中益気湯は気虚(エネルギーが足りていない状態)に用いられる代表的な方剤で,消化機能の改善や免疫状態の改善作用が報告されている。十全大補湯は気虚に加えて血虚がある場合に用いられ,貧血傾向や皮膚の乾燥,手足の冷えがある場合に用いられる。人参養栄湯は十全大補湯とほぼ同じ構成生薬に,鎮咳作用や鎮静作用を持つゴミシが追加されているため,さらに咳嗽や痰,不眠の症状も合併しているような患者に用いられる。これらは抗がん剤治療による全身倦怠感などに対しても使用されている。

 腎気剤としては八味地黄丸,牛車腎気丸などが挙げられる。八味地黄丸は高齢者によく使用される方剤であり,体力の低下に加えて腰部や下肢の冷え・脱力感や排尿異常がある患者に用いられる。牛車腎気丸は八味地黄丸にゴシツ,シャゼンシを加えた方剤であり,しびれや下肢の浮腫が強い患者に適している。そのため,牛車腎気丸は抗がん剤による末梢神経障害に対しても汎用されている。これらの補剤以外にも,フレイルに合併する認知症症状や嚥下機能低下などに使用される漢方薬も有用とされている。

 漢方薬は西洋薬と異なり,様々な症状を全身的に評価しながら選択する必要があること,構成生薬の組み合わせにより多くの種類があることなどから適正使用が難しい薬剤という印象を持たれることがある。古くからある薬だが,フレイルのような「未病」の状態に対する効果が期待でき,西洋薬との併用によりポリファーマシーの是正に役立つ可能性に注目し,日々の薬物療法に生かしていきたい。

 

参考資料

・令和2年度版高齢社会白書(全体版) 内閣府 

https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2020/zenbun/02pdf_index.html

・吉村芳弘:日本医事新報 (5021): 18-34, 2020.

・鮫島奈々美:肥満研究23(3): 226-232, 2017.

・加藤士郎:日本臨床生理学会雑誌49(3): 131-136, 2019.

(日本医科大学付属病院薬剤部 渡邉友起子)