そこが知りたい2021(令和3)年5月号

高齢者におけるポリファーマシー対策に向けた動き

 高齢者の薬物有害事象には多くの要因が関わっており,その中の一つに多剤服用がある。多剤服用の中でも害をなすものを特にポリファーマシーと呼び,単に服用する薬剤数が多いことではなく,それに関連して薬物有害事象のリスク増加,服薬過誤,服薬アドヒアランス低下などの問題につながる状態を指す。ポリファーマシーは薬物有害事象の増加のみならず,国民医療費の増大などの問題も抱えておりその是正に際しては安全性の確保などからみた処方内容の適正化が求められている。

 このような中,厚労省は2020年12月の高齢者医薬品適正使用検討会において「病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方(案)」を公表した。厚労省は同案を,医療現場で実践的なポリファーマシー対策を浸透させるためのツールとして作成を進めており,2018年5月に公表した「高齢者の医薬品適正使用の指針 総論編」と2019年6月の「同各論(療養環境別)」をもとに,ポリファーマシー対策の方法論について分かりやすくまとめ解説している。同案は,これからポリファーマシー対策を始める病院向けの「始め方」と,ポリファーマシー対策をある程度は進められている病院向けの「進め方」で構成されている。

 「ポリファーマシー対策の始め方」では病院が取組初期に直面する課題を解決するためのスタートアップツールとして活用してもらうことを目的としており,①ポリファーマシー対策を始める前に必要なこと,②身近なところから始める方法,③ポリファーマシー対策を始める際に遭遇しやすい課題と対応策について記されている。「ポリファーマシー対策の進め方」ではある程度進めている病院が業務手順書を整備し,業務をより効率的に行う参考資料として活用してもらうことを目的としており,運営規定や多職種連携ならびに地域連携といった体制づくりや入院患者や外来患者における具体的な実施方法について記されている。また様式事例集は別冊で既にポリファーマシー対策に取り組んでいる施設の運営規定や持参薬評価テンプレートなどを収録しており,医療現場で実践するにあたり有用なものとなっている。

 一方,医療関連情報提供サービス会社(エムスリー社)の会員を対象とした意識調査によると,医師,薬剤師ともに約3割は既にポリファーマシー対策を実践しているという回答に対して,取り組む意欲はあるものの具体的な手順などが分からず手探り状態であるという医師は3割強,薬剤師においては5割強を占めていた。また指針の活用については1割強とほとんど活用されていない実態が分かり,まさに厚労省の問題意識を裏づけるような結果であった。その他として「ポリファーマシー対策において重要な役割を果たすのはどの職種か(複数回答)」という問いに対しては病院に勤務する医師からは薬剤師という回答を5割強得ていた一方,開業医と勤務医という回答もそれぞれ5割弱を占めていた。

 高齢者の安全な薬物療法ガイドラインではポリファーマシー対策における薬剤師の役割やその有用性について明記されている。ポリファーマシー対策の実践に向けては薬学的管理に基づいた包括的な介入が必要であり,薬剤師の積極的な関わりが求められるのは言うまでもない。

 

参考資料

・厚生労働省:第12回高齢者医薬品適正使用検討会2020.12.17 資料1

・エムスリー株式会社:m3.com 意識調査 2021年2月1日アクセス(https://www.m3.com/news/iryoishin/862638

(日本赤十字社医療センター薬剤部 田尻優吏亜)