そこが知りたい2021(令和3)年7月号

カルタヘナ法と再生医療等製品,薬剤師の関わり

 現在,急速に発展している遺伝子組換え技術は,医療や農業等の多くの産業で利用されている。医薬品においては微生物にヒトの生体で必要なタンパク質等を生成させること,農作物においては病原菌や害虫への耐性獲得や栄養価の向上等を目的にこの技術が応用されている。一方で,遺伝子組換え生物等(農産物,微生物等)が意図せずに周辺環境へ広がってしまうと,周辺の生態系に影響を及ぼしてしまうことも考えられる。

 そこで日本では,遺伝子組換え生物等の環境への影響(生物多様性への影響)について,関係省庁が評価して承認する制度を策定している。この制度の基礎となる法律が「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」で,通称,カルタヘナ法と呼ばれる。生物の多様性に関する条約のバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書が発効されたのに伴い,この議定書の実施を目的として2004年に施行された。遺伝子組換え生物等を使用する際に適切な措置を講ずることで,生物の多様性への悪影響を未然に防ぐ目的がある。

 遺伝子組換え生物等の使用形態に応じて「第一種使用等」「第二種使用等」に分けられ,それぞれの使用に応じて,とるべき措置が定められている。「第一種使用等」とは,遺伝子組換え生物等の環境中への拡散を完全には防止しないで行う行為(遺伝子組換え農作物の輸入等)で,「第二種使用等」は,遺伝子組換え生物等の環境中への拡散を防止しつつ行う行為(遺伝子組換えマウスの工場内での飼育,繁殖等)になる。

 この法律に基づき承認された第一種使用規程が定められた再生医療等製品として,ゾルゲンスマ点滴静注がある。ゾルゲンスマ点滴静注は,脊髄性筋萎縮症(Spinal Muscular Atrophy:SMA)の原因遺伝子であるヒト運動神経細胞生存(Survival Motor Neuron:SMN)タンパク質をコードする遺伝子が組み込まれた,野生型のアデノ随伴ウイルス9型(AAV9)を利用した遺伝子治療用ベクター製品である。効能,効果または性能は,「脊髄性筋萎縮症(臨床所見は発現していないが,遺伝子検査により脊髄性筋萎縮症の発症が予測されるものも含む)ただし,抗AAV9抗体が陰性の患者に限る」である。ただし,使用上の注意として,2歳未満が対象である旨,疾患の症状や各種検査に関する項目がある。

 添付文書上の承認条件として「カルタヘナ法に基づき承認された第一種使用規程を遵守して本品を用いるよう,その使用規程の周知等,必要な措置を講ずること。」が求められている。そのため使用の際,医療機関にはカルタヘナ法の第一種使用規程に従った対応が求められると共に,医師に対しては日本小児神経学会認定の小児神経専門医であること等,日本小児神経学会作成のゾルゲンスマ適正使用指針の要件を満たす必要がある。 調製は,施設の他の区画と明確に区別された作業室内で行う必要があり,本製品を調製中は他の薬剤の調製は行わない。また,作業室内での製品の拡散を最小限に留めるために,閉鎖式接続器具を使用してバイアルからの吸引操作を行うことや,安全キャビネットの使用を考慮する。調製時の漏出や調製後の清拭は次亜塩素酸ナトリウム等のエタノール以外の消毒薬を用いる(1〜10%の次亜塩素酸ナトリウムで不活化が可能とされている)。調製後の製品は密封した状態で投与患者のもとに運搬し,他の区画と明確に区別された治療室内で患者に静脈投与することと定められている。

 薬剤師は抗がん剤等の調製を通じて,漏出対策等の安全面に配慮した調製を行うことができる。環境への曝露に対し注意が必要な再生医療等製品の調製も薬剤師が積極的に関与することが,安全な医療を患者に提供するうえで重要と思われる

参考資料

・農林水産省ホームページ カルタヘナ法に基づく生物多様性の保全に向けた取組(https://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/carta/torikumi/index.html

・経済産業省ホームページ 安全審査に関する情報(カルタヘナ法,バイオレメディエーション利用指針)

(https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/bio/cartagena/anzen-shinsa2.html)

・ゾルゲンスマ点滴静注 インタビューフォーム 2021年3月改定 ノバルティスファーマ株式会社

・ゾルゲンスマ点滴静注 適正使用ガイド 2021年3月作成 ノバルティスファーマ株式会社

・ゾルゲンスマ点滴静注 適正使用指針 2021年3月30日改訂 一般社団法人日本小児神経学会

(東京医科大学病院 宮澤 祐輝)