そこが知りたい2021(令和4)年1月号

がん悪液質に対する効能を持つ新薬「アナモレリン塩酸塩」について

 がん悪液質は「通常の栄養サポートでは完全に回復することができず,進行性の機能障害に至る,骨格筋量の持続的な減少(脂肪量減少の有無を問わない)を特徴とする多因子性の症候群」と定義され,全身性の炎症,体重減少,食欲不振が主症状として見られる。

 飢餓状態とは体重の減少を伴う点で共通するが,相違点として①がん悪液質では骨格筋の分解が合成を上回り,骨格筋量の減少がみられること(飢餓では骨格筋量は維持される),②がん悪液質では安静時エネルギー消費量が増加していること(飢餓では減少する)が挙げられる。がん悪液質は進行がん患者の80%に認められており,がん患者における体重減少はその程度に応じて予後を悪化させるため,積極的な治療が必要とされている。

 がん悪液質の主な症状として食欲不振があるが,近年ペプチドホルモンの一種で食欲を制御するグレリンが悪液質の治療標的として注目されてきた。グレリンは成長ホルモン(GH)放出促進因子受容体タイプ1a(GHS-R1a)の内因性アゴニストであり,GH分泌促進や食欲亢進作用に加え,体重増加,脂肪生成促進,糖代謝への関与,消化管運動調節,サイトカイン産生抑制等の生理作用を示すことが確認されている。このグレリン様作用を有するのが,2021年4月に発売されたアナモレリン塩酸塩(商品名:エドルミズ錠,以下本剤)である。本剤は非小細胞肺癌,胃癌,膵癌,大腸癌におけるがん悪液質に対して承認された。用法・用量は100mgを1日1回空腹時に服用し,本剤服用後1時間は食事をしないこととされている。本剤は食後に服用した場合,空腹時と比較してアナモレリンのCmax及びAUCinfが低下すること,がん悪液質患者では定期的な食事摂取が困難になることが想定されることなどから,食事に縛られないタイミングである空腹時投与で設定された。なお,本剤の投与対象の重篤性を考慮し,早期に効果判定を行う必要性があるとされたため,臨床試験の結果を踏まえて,投与開始3週後に効果判定を行うこと,その後も12週間を超える投与経験がないことから,定期的に投与継続の必要性を検討することとされた。また,臨床試験における対象患者と実際の現場での「がん悪液質」患者の選択に相違がないようにするため,効能・効果に関連する使用上の注意ではがん種以外にも患者の選択基準が示されている(表)。

 本剤の有効性は,非小細胞肺癌のがん悪液質患者を対象とした国内第Ⅱ相試験及び大腸癌,胃癌又は膵癌のがん悪液質患者を対象とした国内第Ⅲ相試験で示されている。第Ⅱ相試験では主要評価項目である「除脂肪体重(LeanBodyMass;LBM)のベースラインからの12週間の平均変化量」について,本剤100mg群とプラセボ群の差の最小二乗平均値[95%信頼区間]は1.56kg[1.11-2.00]であり,プラセボ群に対する有意性が認められた。また,第Ⅲ相試験では主要評価項目である「LBMの維持・増加が認められた(LBMのベースラインからの変化量が一度も0kg未満にならなかった)被験者の割合」は63.3[48.3-76.6]%であり,95%信頼区間の下限値が事前に設定された閾値有効率(30.7%)を上回る結果が得られた。さらに有意差は認められなかったが,QOLの指標として食欲の改善傾向が見られた。

 本剤の重要な特定されたリスクとして,高血糖,肝機能障害,刺激伝導系抑制がある。そのため禁忌事項にはうっ血性心不全のある患者,心筋梗塞又は狭心症のある患者,高度の刺激伝導系障害(完全房室ブロック等)のある患者,中等度以上の肝機能障害(Child-Pugh分類B及びC)のある患者の記載があり,また糖尿病患者は慎重投与とされている。特に刺激伝導系抑制については,投与開始前及び投与期間中の心電図,脈拍,血圧,心胸比,電解質等の定期的な測定が推奨されている。薬物相互作用としては,本剤が主にCYP3A4で代謝されることから,強いCYP3A4阻害剤とは併用禁忌である。さらに刺激伝導系抑制のリスクから,抗不整脈薬やQT間隔延長を起こす薬剤に加え,心毒性を有する抗悪性腫瘍剤も併用注意とされている。

 本剤は世界に先駆けて日本で承認され,4月の発売時点においては諸外国では発売されていない。海外第Ⅲ相試験において,もう一つの主要評価項目としてLBMの増加が運動機能の改善に寄与することを直接的に評価するために「握力のベースラインからの変化量」が設定されたが,こちらに有意差が認められなかったことがその理由である。現在は欧米での承認を取得するため,主要評価項目を「体重の増加」及び「食欲の改善」と設定した海外第Ⅲ相試験を新たに実施中である。

 本剤の発売によりがん悪液質に対する新たな薬物療法が可能となったが,がん悪液質の治療には骨格筋量増加のための運動療法,栄養療法も不可欠である。他職種とも連携しつつ,がん患者の身体機能とQOLの維持・改善に努めていきたい。

 

参考資料

 ・エドルミズ錠医薬品インタビューフォーム(2021年4月)                    

 ・エドルミズ錠審査報告書(2021年1月22日)

 ・がん悪液質ハンドブック:監修:一般社団法人日本がんサポーティブケア学会他,2019年3月

(日本医科大学付属病院薬剤部 渡邉 友起子)