ミトコンドリアに作用する新規経口糖尿病薬イメグリミン
「ミトコンドリアとは何なのか?」と聞かれて詳しく説明できる医療者は多くないのではないでしょうか。
ミトコンドリアは細胞内の小さな器官であり,脳,心臓,筋肉,肝臓および膵臓など人間の体のほとんどの細胞に存在する。細胞内における重要な役割は,エネルギー(アデノシン三リン酸:ATP)の産生である。食事に含まれる糖や脂質を分解してエネルギーを作り出しており,ミトコンドリアと糖尿病はとても深い関係にある。
そのミトコンドリアの機能を改善する新規機序の経口糖尿病薬としてイメグリミン(商品名:ツイミーグ錠®,以下,本剤)が2021年9月に発売された。本剤の薬理作用としてはミトコンドリア機能改善による肝臓・骨格筋でのインスリン抵抗性改善作用とグルコース濃度依存的なインスリン分泌促進作用をもつと考えられており,2型糖尿病の主な成因であるインスリン分泌不全とインスリン抵抗性の両方の改善が期待されている。国内の臨床試験においては長期投与時も含めて本剤の単独療法および他の血糖降下薬との併用療法の有効性が示されている。
安全性については本剤単独群とプラセボ群の有害事象の発現状況に大きな差は認められておらず,併用療法下においても低血糖および消化器症状は本剤単独群に比べ,発現割合は高かったものの安全性を特に懸念する結果は認められなかった。また臨床試験では乳酸アシドーシスの発現は認められていないが,本剤とビグアナイド系薬剤は作用機序の一部が
共通している可能性があるため,RMP においては重要な潜在的リスクとして挙げられている。
一方,本剤は主に腎臓から未変化体で排泄され,腎機能低下に応じて血中濃度の上昇が認められている。添付文書においては禁忌ではないが,eGFR45mL/min/1.73㎡未満の腎機能障害患者に投与は推奨されないといった注意喚起をしている。その背景として以下の理由が挙げられる。
・第二相及び第三相試験にはCKD3b ~5に該当する患者は組み入れておらず,CKD3b 及び4に該当する2型糖尿病患者を対象として実施された海外臨床薬理試験においても投与期間及び検討症例数が限られること。
・本剤は既存の糖尿病治療薬とは一部異なる作用機序を有している可能性があること。
・乳酸アシドーシス等の本剤の潜在的なリスクに関する情報は限られていること。
・CKD3b に該当する患者に対して投与する際,メトホルミンと併用される可能性があること。
以上を踏まえ,PMDA は製造販売後臨床試験でeGFR45mL/min/1.73㎡未満の腎機能障害患者における薬物動態および安全性を確認する必要があるとしている。
日本人の2型糖尿病患者では欧米の患者と比較してインスリン分泌能が低い症例が多いが,近年は肥満でインスリン抵抗性を有する症例も増加傾向にあ
る。本剤の薬理作用は必ずしも明らかでない部分はあるが,インスリン分泌促進作用とインスリン抵抗性改善作用の両方を発揮する薬剤であれば,2型糖尿病の発症初期に使用される薬剤となり得る。一方,現段階では本剤は腎機能障害患者においては使用しがたい状況である。2型糖尿病患者では腎機能障害を合併する患者への使用が想定されるため,適正使用の観点からも製造販売後臨床試験における安全性及び有効性の結果が待たれる。
参考資料
1)医薬品医療機器総合機構:ツイミーグ錠500mg 審査報告書(2021年6月23日)
2)大日本住友製薬株式会社:ツイミーグ錠500mg に係る医薬品リスク管理計画書(2021年11月11日)
(日本赤十字社医療センター薬剤部 田尻優吏亜)