GLP 関連医薬品と短腸症候群に唯一適応を有する治療薬
グルカゴン様ペプチド(Glucagon-like Peptide:GLP)に関連する医薬品とは?と聞かれたら,多くの方がGLP-1受容体作動薬を挙げると考えられる。GLP-1はインクレチンと呼ばれる消化管ホルモンの一種であり,栄養素の摂取に応じて小腸下部から分泌され,膵臓のβ細胞にあるGLP-1受容体と結合し,グルコース濃度に依存してインスリン分泌を促進することで血糖値を低下させる。しかし,GLP-1自体はジペプチジルペプチターゼ-4(DPP-4)により体内で速やかに分解されるため,作用の持続化を目的としたGLP-1アナログ製剤が開発され,2型糖尿病治療に用いられている。
このGLP-1受容体作動薬以外に,GLP に関連する医薬品として,GLP-2のアナログ製剤であるテデュグルチド(遺伝子組換え)「レベスティブ®皮下注用3.8mg」が“短腸症候群”に唯一適応を有する治療薬として2021年6月に製造販売承認を取得し,8月に上市された。
天然型GLP-2 は,腸管内容物に応答して主に下部腸管に存在するL 細胞から分泌され,栄養分の吸収促進や腸上皮の増殖とアポトーシスの調節作用により,主に腸管粘膜表面の維持と修復に寄与する。さらに,炭水化物,アミノ酸及び脂質吸収能の亢進,刷子縁消化酵素の活性及び発現増加など多彩な機序を介してエネルギー吸収を促進し,六炭糖及び栄養素の輸送を増大する。また,胃運動を低下させ,胃酸分泌を抑制し,粘膜バリア機能を強化し,腸及び門脈血流量を急激に増加させることも示されている。この天然型GLP-2はGLP-1と同様にDPP-4により速やかに分解されるため,テデュグルチドは遺伝子組換えによりDPP-4に耐性を持つアナログ製剤として開発されている。
次に,短腸症候群(short bowel syndrome:SBS)は,「広範な腸管切除の結果,栄養素の吸収に必要な小腸長が不足して吸収能が低下するために,標準的な経口あるいは経腸栄養では水分,電解質,主要栄養素,微量元素,およびビタミンなどの必要量が満たされない状態」と定義され,診療報酬上は,小児では残存小腸が75cm 以下,成人では150cm 以下または3分の1以下の場合が小腸大量切除と定義されている。SBSの成因として成人では,上腸間膜動・静脈血栓症やクローン病,広範囲にわたるイレウスに対する小腸広範切除により発症することが多く,小児では,壊死性腸炎,中腸軸捻転,小腸閉鎖など先天性腸疾患や外傷が原因となる。
また,SBS の吸収不良は一次的には小腸表面積減少の結果であるが小腸通過時間の短縮も影響しており,吸収障害の程度は残存小腸の長さと,回盲弁・大腸が残っているか,などに影響される。腸管順応を促進する方法として,積極的な経腸栄養の施行が有効であるが,SBS のようにGLP-2を産生する腸セグメントの切除を受けた患者は,腸吸収機能を調節する重要なホルモンを欠いていることから,十分な内因性GLP-2を産生できない可能性があり,外因性GLP-2を投与することで,腸管内の主要な恒常性シグナルを回復させ,腸管順応を促すことが期待される。
実際に,レベスティブ®皮下注用の成人および小児短腸症候群患者を対象とした海外第Ⅲ相試験(二重盲検比較試験)では,週間経静脈栄養量のベースラインからの減少を20% 以上達成した被験者の割合において,プラセボ群に対して統計学的有意差が示されている。また,腸管に作用する薬剤であるため,副作用としては消化管ストーマ合併症,腹部膨満,腹痛,悪心等が確認されている。 今回紹介した短腸症候群に唯一適応を有する治療薬であるGLP-2アナログ製剤は,推定対象患者数が約1,000人の希少疾病医薬品に指定されており,実際に取り扱う機会は少ないかもしれないが,薬剤師として幅広い知識を習得する上で,一度は学んでみるべき医薬品である。
参考資料
1)レベスティブ®皮下注用 医薬品インタビューフォーム
2)レベスティブ®皮下注用 審査報告書
3)小児慢性特定疾病情報センター ホームページ
4)静脈経腸栄養ガイドライン 第3版(日本静脈経腸栄養学会 編著)
(日本大学病院 佐々木祐樹)