そこが知りたい2022(令和4年)5月号

HPV ワクチンについて

 ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンは子宮頸がんの予防を目的に2013年4月に定期接種の対象となりました。しかし,HPV ワクチン接種後に体の広範囲にわたる疼痛や手足の動かしにくさ,不随意運動等を中心とする「多様な症状」が副反応疑いとして相次いで報告されました。この副反応について,当時は十分に情報提供できない状況にあったことから,接種希望者の接種機会は確保しつつ,適切な情報提供ができるまでの間,積極的な勧奨を一時的に差し控えるべきとの判断がなされ,2013年6月に「積極的勧奨の差し控え」が決定しました。

 しかし,その後に国内外においてHPV ワクチンの有効性と安全性に関する多くのデータが集積されたこと,ワクチン接種と副反応との因果関係が証明されなかったことを受け,2021年11月,厚生科学審議会においてHPV ワクチンの「積極的勧奨の再開」が了承されました。これを受け,2022年4月から個別の「接種勧奨」が再開される方針となったため,HPV ワクチンの有効性と安全性について,その一部を紹介します。

■HPV と子宮頸がん1)

 HPV には100種類以上の遺伝子型があり,そのなかで子宮頸がんの原因となりうる遺伝子型として15種類の「高リスク型HPV」が報告されています。高リスク型HPV は,子宮頸がん以外にも中咽頭がんや肛門がんの要因にもなります。国内では子宮がんの95%以上で高リスク型HPV が検出されており,特にHPV16型・18型が60~70%を占めています。

 HPV に感染しても,必ず子宮頸がんを発症するわけではありませんが,感染者のうち数%が持続感染から前がん病変(高度異形成)に移行し,さらにその一部が子宮頸がんを発症します。国内では年間1万1000人程度が子宮頸がんを発症するとされおり,年代別では20代後半から増え始め,40代でピークを迎えます。また,年間2,800人程度が死亡すると報告されています。

■HPV ワクチンの種類

 HPV ワクチンには現在2価・4価・9価のワクチンが販売されていますが,定期接種の対象となるのは2価と4価のワクチンです(表1)。いずれのワクチンも高リスク型HPV であるHPV16型・18型の感染を予防することが期待でき,対応する型が多いほど多くの高リスク型HPV による感染を予防することが期待できます。

■HPV ワクチンの有効性2),3)

 HPV ワクチンの有効性については,HPV の「感染減少」や「前がん病変の減少」に関して世界から多くのデータが集積されています。2020年にはHPV ワクチン接種による「浸潤子宮頸がんの減少効果」についてスウェーデンから発表されています。

[4価HPV ワクチン接種と浸潤性子宮頸がんの関係を検討するコホート研究]

 10歳~30歳の女性167万2983人を対象として,子宮頸がんの発症率を追跡調査

 (調査期間:2006年1月1日~2017年12月31日)

〈主要評価項目〉

 調査期間中の子宮頸がんの累積発症率を4価HPVワクチン接種群と未接種群に分けて比較。

〈結果〉

 追跡対象の167万2,983人のうち,ワクチン接種者は52万7,871人(17歳未満で接種:43万8,939人),未接種者は114万5,112人だった。

 子宮頸がんの診断を受けていたのは,ワクチン接種群19人,未接種群538人だった。年齢で補正を行うと,ワクチン接種群の非接種群に対する発症率比は0.51(95%CI:0.32-0.82, 相 対 リ ス ク 減 少:49%),他の関連が予想される因子でさらに補正を行うと,発症率比は0.37(95% CI:0.21-0.57,相対リスク減少:63%)だった。

 初回のワクチン接種年齢で層別化すると,17 歳になる前にワクチン接種を受けた人では,ワクチン非接種群に対する発症率比は関連が予想される因子の補正後で0.12(95% CI:0.00-0.34,相対リスク減少:88%),17~30歳でワクチン接種を受けた人では発症率比0.47(95% CI:0.27-0.75,相対リスク減少:53%)だった(表2)

■HPV ワクチンの安全性2),3)

 HPV ワクチン接種後に報告された「多様な症状」とワクチンの関連性を評価するため,名古屋市で1994~2001年に生まれた女性71,177人を対象に,多様な症状として報告されている24症状について質問票を用いた調査を実施,29,846人分(ワクチン接種20,748人,非接種9,098人)の回答を解析した報告があります(表3)。

 最も多かった症状は「月経不順」(26.5%)でした。8つの症状は発現率10%を超え,4つの症状は1.0%未満でした。しかし,非接種群と比較して,調査した症状のいずれの発現率も接種群で臨床的に有意な上昇は認めていません。

■おわりに

 HPV ワクチンを適切な時期に接種することで,子宮頸がんを予防することができるというエビデンスが世界から多数報告されています。しかし,日本ではワクチン接種の積極的勧奨の差し控えに伴い,接種率が低迷する時期が長く続いたため,ワクチン接種率が低い状況が続いてきました。

 今回,HPV ワクチンの積極的勧奨が再開されるにあたり,ワクチンの有効性と安全性について最新のエビデンス等を踏まえた情報提供が進むことで,ワクチン接種率が向上し,将来の子宮頸がんの予防につながることが期待されています。

 

参考資料

1)日本産科婦人科学会ホームページ公開情報,子宮頸がんとHPV ワクチン

2)第72回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会,令和3年度第22回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会資料(令和3年11月12日)

3)第69回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会,令和3年度第18回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会資料(令和3年10月1日)

4)HPV Vaccination and the Risk of Invasive Cervical Cancer, Jiayao Lei, Alexander Ploner, et al. N Engl J Med, 383; 14: 1340-1348(2020)

5)No association between HPV vaccine and reported post-vaccination symptoms in Japanese young women: Results of the Nagoya study, S Suzuki, A hosono, Papillomavirus Research. 5: 96-103 (2018)

(東邦大学医療センター大森病院 横山拓生)