そこが知りたい2014(平成26)年4月号

睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン
 ―出口を見据えた不眠医療マニュアル―

 2013年6月,厚生労働科学研究・障害者対策総合研究事業による睡眠薬の適正使用及び減量・中止のための診療ガイドラインに関する研究班および日本睡眠学会による睡眠薬使用ガイドライン作成ワーキンググループが「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」を共同で策定した。
 目的は不眠医療を安全かつ効果的に行うために必要となる最新のエビデンスに立脚した実践的フレームワークを提供することにある。不眠症は日本の一般成人の約10%が罹患している最も有病率の高い睡眠障害の一つであり,高齢化,ストレスの増加,24時間社会と不眠症リスクが高まる社会環境の中,睡眠薬の処方率は近年一貫して増加を続けている。一方,日本人は睡眠薬に対する不安が非常に強いことが知られている。この背景には,睡眠薬の投薬期間や休薬指針が明確でない,すなわち「治療の出口が見えない」ことも一因になっており,とりわけ睡眠薬の適正使用は勿論のこと,出口(減薬・休薬)を見据えた不眠医療のあり方に焦点を当てて作成された。
 本ガイドラインには,不眠の訴えがある患者に対してどのような治療が必要かを症状に応じて適切な治療法に導く治療アルゴリズム(図1)が示されている。薬物療法だけではなく,睡眠衛生指導(表1)や認知行動療法など非薬物療法を活用しながら難治例に対応し,適切な時期に減薬・休薬するまでの診療の流れと指針を明示している。また不眠症と睡眠薬に関する代表的な40のクリニカルクエスチョン(臨床上の疑問点;表2)を取り上げ,各設問に対しては既存の臨床試験から得られたデータを元に,十分なエビデンスが存在しない場合はエキスパートコンセンサスに基づき,患者向けの解説及び医療者向けの勧告(推奨)を行っている。患者向けの解説は理解しやすくある程度方向付けがされており,医療者向けの勧告(推奨)にはMinds(Medical Information Network Service)に準じて推奨グレードが付けられている。本ガイドラインは,実地臨床で応用しやすい実用性の高い診療情報を数多く含んでおり,睡眠薬に関するこれらの疑問に明確に回答することで,不眠医療の質の向上と患者の安心に貢献できるものと期待する。
 クリニカルクエスチョンには,医療現場でしばしば遭遇する設問が盛り込まれている。普段,服薬指導に従事しているわれわれ薬剤師は大いに参考としたい。

 

図1 不眠症の治療アルゴリズム

CBTI:Cognitive Behavior Therapy for Insomnia(不眠症に対する認知行動療法)

 

表1 睡眠衛生のための指導内容

指導項目 指導内容
定期的な運動 なるべく定期的に運動しましょう。適度な有酸素運動をすれば寝つきやすくなり,睡眠が深くなるでしょう。
寝室環境 快適な就床環境のもとでは,夜中の目が覚めは減るでしょう。音対策のためにじゅうたんを敷く,ドアをきっちり閉める,遮光カーテンを用いるなどの対策も手助けとなります。寝室を快適な温度に保ちましょう。暑すぎたり寒すぎたりすれば,睡眠の妨げとなります。
規則正しい生活 規則正しい食生活をして,空腹のまま寝ないようにしましょう。空腹で寝ると睡眠は妨げられます。睡眠前に軽食(特に炭水化物)をとると睡眠の助けになることがあります。脂っこいものや胃もたれする食べ物を就寝前に摂るのは避けましょう。
就寝前の水分 就寝前に水分を取りすぎないようにしましょう。夜中のトイレ回数が減ります。脳梗塞や狭心症など血液循環に問題のある方は主治医の指示に従ってください。
就寝前の
カフェイン
就寝の4時間前からはカフェインの入ったものは摂らないようにしましょう。カフェインの入った飲料や食べ物(例:日本茶,コーヒー,紅茶,コーラ,チョコレートなど)をとると,寝つきにくくなったり,夜中に目が覚めやすくなったり,睡眠が浅くなったりします。
就寝前のお酒 眠るための飲酒は逆効果です。アルコールを飲むと一時的に寝つきが良くなりますが,徐々に効果は弱まり,夜中に目が覚めやすくなります。深い眠りも減ってしまいます。
就寝前の喫煙 夜は喫煙を避けましょう。ニコチンには精神刺激作用があります。
寝床での考え事 昼間の悩みを寝床に持っていかないようにしましょう。自分の問題に取り組んだり,翌日の行動について計画したりするのは,翌日にしましょう。心配した状態では,寝つくのが難しくなるし,寝ても浅い眠りになってしまいます。

 

表2 クリニカル・クエスチョン

治療について,睡眠薬について
Q1:睡眠薬によって効果も違うのですか?
Q2:睡眠薬は服用してからどのくらいで効果が出ますか?
Q3:睡眠薬,睡眠導入剤,安定剤の違いは何でしょうか?
Q4:薬を使わない治療法はあるでしょうか?
服薬,睡眠習慣について
Q5:睡眠薬はいつ服用すればよいでしょうか?
Q6:眠れない時だけ睡眠薬を服用してもよいでしょうか?
Q7:寝付けないときや,夜間に目を覚ましたときは何時頃まで追加屯用してもよいでしょうか?
Q8:睡眠薬より寝酒の方が安心のような気がします。
Q9:睡眠薬は,晩酌後何時間くらい空けてから服用したらよいでしょうか?
Q10:睡眠薬を服用した翌朝に運転しても大丈夫ですか?
さまざまな病気の不眠について
Q11:ストレスや精神的な病気が原因の不眠にも睡眠薬は効果がありますか?
Q12:脳神経の持病があります。睡眠薬を服用しても大丈夫でしょうか?
Q13:認知症の不眠や昼夜逆転に睡眠薬は効果があるでしょうか?
Q14:痒みで眠れません。眠気のでる抗ヒスタミン薬を服用すれば一石二鳥だと言われましたが・・。
Q15:痒みで眠れません。睡眠薬を服用すべきでしょうか?
Q16:痛みで眠れません。睡眠薬を服用すべきでしょうか?
Q17:トイレが近く,眠れません。睡眠薬を服用すべきでしょうか?
Q18:睡眠時無呼吸症候群の治療中です。睡眠薬を服用しても大丈夫でしょうか?
Q19:せん妄治療における睡眠薬の用い方
Q20:高齢者の不眠症にも睡眠薬は効果があるでしょうか?
Q21:高齢なので睡眠薬の副作用が心配です。
Q22:睡眠薬を服用中に妊娠に気づきました。胎児に影響はないでしょうか?
Q23:更年期障害で眠れません。睡眠薬を服用すべきでしょうか?
Q24:夜勤明けに眠りたいのですが,睡眠薬を服用してもよいでしょうか?
不眠症が治りにくいとき
Q25:睡眠薬を服用しても眠れません。増量すれば効果が出ますか?
Q26:睡眠薬を服用しても眠れません。何種類か組み合わせれば効果がでますか?
Q27:抗うつ薬も不眠症に効果がありますか?
Q28:漢方薬やメラトニンも不眠症に効果があるでしょうか?
Q29:市販の睡眠薬も不眠症に効果があるでしょうか?
Q30:市販のサプリメントも不眠症に効果があるでしょうか?
睡眠薬の副作用
Q31:睡眠薬を何種類か服用しているので副作用が心配です(主に依存・耐性以外の副作用について)
Q32:睡眠薬服用後の記憶がありません。
Q33:徐々に睡眠薬の効果が弱くなり,量が増えるのが心配です 
Q34:睡眠薬を止められなくなるのではないか心配です。
Q35:睡眠薬を服用していると認知症になると聞いて心配です。
Q36:睡眠薬の飲み過ぎで死亡した人がいると聞いて不安です。
Q37:他の治療薬との飲み合わせが心配です
不眠治療のゴールとは
Q38:睡眠薬はいつまで服用すればよいのでしょうか? 服用すれば眠れますが,治っているのでしょうか?
睡眠薬の減量・中止法
Q39:禁断症状がでるため睡眠薬が減らせません。
Q40:睡眠薬の減量法を教えてください。

参考文献
日本睡眠学会ホームページ:http://jssr.jp/
国立精神・神経医療研究センターホームページ:http://www.ncnp.go.jp/
(日本赤十字社医療センター 田尻優吏亜)