そこが知りたい 2014(平成26)年12月号

危険ドラッグの本当の“危険性”について

 厚生労働省は警視庁とともに一般募集した「脱法ドラッグ」に代わる新呼称として「危険ドラッグ」を選定・公表した(7月22日Press Release)。脱法があたかも合法で容易に手にすることのできるものとして誤認され,またハーブという表現が危険性に誤解を与えていた。今回の新呼称に必要とされたのは,危険性が高い薬物であることが幅広い年代に理解を得られることであり,この背景には脱法ドラッグ,または脱法ハーブと称されていた薬物の使用による事故や事件,あるいは意識障害・痙攣を引き起こして医療機関に救急搬送される事例の増加といった大きな社会問題がある。
 危険ドラッグは中枢神経系の興奮あるいは抑制作用,幻覚作用を有する物質であることが確認できれば,薬事法が規定する指定薬物としてそれを含有する製品は製造・販売など流通の規制を受ける。こうした規制を講じても化学構造式の一部を変えることで指定薬物の規制を逃れ,新たに市場に出回る状況が繰り返されている。警視庁調べでは危険ドラッグによる死亡例は平成22・23年度にそれぞれ8人と9人であったが,平成24年度は上半期だけで24人になり,その化学構造式の変化により中毒症状がより強くなっていると危惧されている。
 危険ドラッグと一括りに称しても製品の形態や,それに含まれる物質は様々である(図1)。脱法ドラッグとして社会問題化した平成10年頃は,セロトニン類似物質のトリプタミン系,麻薬指定されているMDMAの類縁誘導体とフェネチルアミン系(麻薬指定2C-T-7の側鎖を変えた2Cシリーズ)がその多くを占める。これらは平成19年の薬事法改正により指定薬物と認定し,製造・販売が禁止となった。その後,平成23年頃から脱法ハーブによる事故や救急搬送が報告されはじめた。
 ハーブは中枢神経抑制作用を現す合成カンナビノイド系や合成オピオイド系が主であるが,近年,出回っているリキッドやパウダーには覚せい剤に類似した中枢神経興奮作用を現すカチノン誘導体が含有されている。合成カンナビノイド系は大麻成分であるテトラヒドロカンナビノールと同じカンナビノイド受容体に作用し,それらの中にはカンナビノイド受容体への親和性が高く,大麻に比べて4~5倍のものがある。 また,培養細胞試験においてマウス脳由来の神経細胞を2時間で死滅させるほどの神経毒性が確認されているものもある。
 危険ドラッグによる中毒症例は数多く報告されており,精神症状では幻覚,妄想,不安感,焦燥感,不穏,興奮などさまざまである。消化器症状として悪心・嘔吐は高頻度である。大麻や麻薬,覚醒剤,幻覚剤等が含まれていると急性期では交感神経興奮症状(散瞳,頻脈,血圧上昇,発汗・高体温など)を現す。痙攣発作による筋肉の過剰運動が起こると筋細胞崩壊によって高クレアチニンキナーゼ血症を呈し,ミオグロビン尿症が進行すると腎不全に至るため,横紋筋融解症の合併に注意が必要である。肝機能障害は軽度から劇症に至るまでさまざまである。
 ハーブ系は現在のスクリーニング検査キットTriage DOA®では陰性を示す。被偽薬が特定できない状況における臨床対応として,中枢神経系・交感神経系の興奮症状,高体温にはミダゾラムやプロポフォールを持続投与する。幻覚・妄想を伴う不穏・興奮状態にはハロペリドールの筋注や,内服が可能であればリスペリドンの液剤が適している。痙攣発作があればジアゼパムを投与する。高血圧が改善しない場合や血管痙縮がある場合,ニトロプルシドの持続投与を行い,頻脈が改善しない場合,プロプラノロールの投与を考慮しておくことが望ましい。
 危険ドラッグの中毒症状について特徴的なものを述べたが,市場には数種類の混合品もあり,症状が重篤化となる危険性が一層高まっている。その事実をより多くの人が認知することが望まれる。

 

参考資料
・和田清:わが国の薬物乱用・依存の最近の動向―特に「脱法ドラッグ」問題について―.臨床精神医学:42(9),1069-1078,2013.
・上條吉人:急性中毒診療レジデントマニュアル第2版.医学書院.東京.

(順天堂東京江東高齢者医療センター薬剤科 高野 賢児)